新しく 俺に参謀 付きました
あれから半月が経ち、俺はスティード王国軍に侵攻されている地域に来た。
本音を言えば1度帰って片付けなければならない身の回りの事は色々と有るが、残念ながら敵国に侵攻を許しているこの状況では、そんな事を言っている場合ではない。
そういう訳で正体は俺であるホーキンス侯爵が率いるディラーク王国軍は、侵攻してきたスティード王国軍との川を挟んでの睨み合いが続いている。
この川、本来ならば結構な水量なんだけど、今はそんなに深くもないし流れも緩やかだから力攻めも可能だ。その気になれば。
しかし睨み合うには事情が有る。
「閣下、目論見通りに事は進んでおります」
如何にも悪い奴が言いそうな台詞だが、言っているのは王宮魔術師団からリックの推薦で俺の側近となったエリートだ。
名前をマキシムと言い、38歳で伯爵家の4男だそうだ。
王宮魔術師団ではリックの先輩で、兎に角仕事が出来る凄い人らしい。
事実、マキシムが反乱分子であった貴族の残党を上手い具合に最前線へと追いやってくれた。
その上、俺への不満は全てこのマキシムがシャットアウトしてくれて助かる。
顔もまぁ整っている。どういう理由か、ドラマでも仕事が出来る奴はイケメンって相場が決まっているしな。
さぞモテると思いきや、王宮魔術師団を巡る政治的な駆け引きに明け暮れている内にこの歳になり、女性と交際した事は無いそうだ。それでいて女性に興味が無い訳ではない。
つまり、その歳で年齢イコール彼女いない歴。
マキシム、君とは良い関係が築けそうだ!
「閣下、先にご報告した件ですが」
「内通者の事か?」
「この期に及んでまだスティード王国と通じている輩が確定しました。数名おりますが如何なさいますか?」
こちらは内通者の確定、敵軍は内通者からの情報の入手に時間が必要なので睨み合いが続いている。
お互いに損失は抑えたいからね。
「お前はどう思う?」
こういう時は出来る奴の意見を聞いて、それに乗ろう!
「そうですね。私でしたら偽の情報を流します。複数人から同じ偽情報を入手すれば、相手にとって信憑性が増すかと」
「それだ。今まで泳がせていたのもその為だ!」
「流石は閣下。恐れ入ります」
少しだけ気が引けるけど、仕方がない。全てお見通しってしないと格好が付かないからね。
そういう訳で補佐役のマキシム、これからもよろしく!
「マキシム、作戦会議を行う。悪いネズミは駆除しておかないとな」
「御意」
「で、作戦なんだけど」
何もかも任せっ放しでは流石にみっともない。そこで思い付いた、と言うよりもかなり前に時代劇で見た作戦を提案する事にした。
マキシムには予め真意を伝え、その上で貴族連中を集めて作戦会議を始める。
「キツツキ作戦ですか?」
「そうだ。別動隊を夜の内に移動させて敵を背後から攻撃する。慌てて動いた敵の本体をこちらの本体が迎え撃ち、追い掛けて来た別動隊とハサミ打ちにする。キツツキが木を突いて出て来た虫を喋む事に着想を得た作戦だ」
川中島の戦いの武田信玄の作戦を再現する事にしてみた。尤も条件の違いも有って再現度は高くないだろうな。その辺は諦めている。
俺と信玄では器も違うし。
「この作戦で重要なのは、別動隊だ!」
この一言で貴族連中の目付きが変わった。
「夜陰に紛れての速やかな移動、そして敵の本体に強襲を掛ける勇猛さ、別動隊の動きに全てが掛かっていると言っても過言ではない!」
「閣下、それは王国の為ならば死をも恐れぬ心、即ち国王陛下への揺るぎ無い忠誠心が無ければ務まりません。この者たちは経緯はどうあれ、口車に乗りクーデターに参加した者らです。とても重要な別動隊が務まるとは思えません!」
ここでマキシムが貴族連中をキリッと睨む。睨まれた方は苦虫を噛み潰したような表情をしている。当然だろうが。
「そのお役目この私、マキシム=フランコにご命じ下さい。必ずやご期待に応えてご覧にいれます!」
「黙れ青二才!」
突然怒号が響いた。内通者だと当たりを付けていた貴族の1人だ。見た目は60歳位かな。図星を突かれてキレているみたいだ。
「考え方に相違は有れど、国王陛下への忠誠ならばワシは誰にも負けん!」
「そうだ!」
「閣下、そのお役目は是非とも私に!」
「名誉挽回の機会を賜れた国王陛下の御慈悲に応える絶好の好機!」
うん、敵に通じていた連中が必死にアピールしている。ホーキンス侯爵の振りをしているゴーレムに!
「閣下、閣下の思い描いた通りになりましたね」
「これで奴等が敵に合流すれば数のバランスが一気に崩れる。そうなればこの睨めっこも終わりだ」
俺の読みでは、この連中が別動隊として動けば敵も動くだろう。夜明けとともに膠着状態は終わると見ている。




