言い渡し ディックがヘタれず やってみた
「では、次に読み上げる者は御前へ参れ!
ディックがいつになく低い声でビシッと言い放つ。この後にまたいつものお約束でヘタレにならなきゃ良いんだけど。
新国王のお披露目会も佳境に入った。ここからはいよいよクーデターに参加した貴族に処罰を言い渡す。
何故かこの役目になったディックが淡々とクーデターに参加した貴族の名を次々と読み上げる。
尤も当事者の殆んどは玉座の間で死体となっている。なのでこの場に居るのは息子とか、分家の者が多い様だ。
「クーデターなんて、本家がそんな事を企んでいたなんて知らなかったんだ!」
これはクーデターに参加した侯爵家の分家である子爵の言い分。
「父が謀反人だろうが自分とは一切関係ない!」
これは玉座の間に遺体がある子爵の息子の言い分。どうやら怒りや悲しみよりも保身が大事な様だ。
「トルーマン公爵、私をお誘いになって下さったではありませんか!」
「そうだ、ワシも公爵に誘われたぞ。トルーマン公爵が宰相となった今、ワシらこそが本当の親王派じゃ」
それぞれ色んな言い訳をするもんだな。
「そもそも小僧、そなたにその様に扱われる謂れなど無いわい!」
「無礼者め!」
ああ、ディックがまだ若くて子爵家の3男だから甘く見られているんだな。こうなったらディックがヘタれるのも時間の問題だろう。そうなる前に助けてやらないと。
ゾクッ!
俺がそう思った矢先に、この謁見の間に緊張が走る。リックが国王として右手を挙げたのだ。この場に居るリックは既に国王としての風格を漂わせていた。
「ディック=レイス伯爵には余に代わって諸々勤めてもらおうと思う。それとも余に謀反人の名を一々読み上げろと申すのか?」
「いえ、その様な事は」
ディックを無礼者呼ばわりしていた連中は途端に大人しくなった。
でも聞き捨てならないのが、ディックが伯爵?
それはレイス子爵家が伯爵になるのか、レイス家とは別にディックが伯爵になるのか、後で確認しよう。
伯爵だなんて聞いていなかったのか、レイス伯爵なんて言われて肝心能力ディック本人が目を泳がせている!
「おいディック、取り敢えずバシッと決めて来い!」
「はい。承知しました」
瞬間的に元のディックに戻ったが、呼吸を整えてさっきまでのキャラを呼び寄こしている。もう一踏ん張りだぞ!
「トルーマン公爵には国家への反乱分子となり得る者にだけ声を掛けて炙り出して頂いた。貴殿らはそれにノコノコと乗った。それだけで反逆の罪に問われる事になる」
「そっ、そんな」
ディック、ここまでは完璧だ。
「本来ならば財産没収の上、一族郎党漏れ無く極刑となる所であるのだが、国王陛下はお前たちの様な者にさえ御慈悲をお与え下さった」
ここでディックは改めてリックに最敬礼をする。この辺の礼儀作法はよく判らないが、きっと最高級に敬っているんだろう。そしてディックは再び貴族連中に向き直った。
「直ちに兵を集めスティード王国軍に立ち向かい、働きを以って国王陛下に忠誠を示す様に。さすれば今回の件は不問とする。それどころか働き次第では要職への取り立ても有り得る。心して励む様に!」
ディックがビシッと決めた! そのまま珍しくディックに感心していると不意に目が合う。
あとは何かを言って終わりにして欲しそうに目が訴えている。根はやっぱりディックか。
それじゃ軍のトップとして一言決めるか。
「スティード王国との国境の殆んどは山岳地帯です。報告によれば敵軍は我国の北東、海沿いの平野部から侵攻しているとの事です。直ちに兵を整えなさい。それぞれが向かう場所は追って指示します。各自、指定の日時に指定の兵力を揃えて臨むように! それが叶わぬ者は謀反とみなし国軍を以ってその身を滅ぼします!」
言ったのはフローラだった。
ちょっと待て。如何にもホーキンス侯爵が喋っているかの様に誤魔化す魔法まで用意して、俺が言おうと思ったのに!
「ですよね、侯爵」
ここでホーキンス侯爵役のゴーレムじゃなくて俺を見るなよ!
しかもフローラの目がハートだ!




