貴族たち やっぱり不満は あるよねえ
夜が明けると同時に王都に在る各貴族の屋敷に伝令が走り、緊急招集がかけられた。
流石に昨夜の事を知らない貴族など居ない。それぞれが身の振り方を思案している事だろう。
彼等にしてみれば今まで取るに足らない存在だった第3王子のリックが次の王様になるんだ。色々と考えて当然か。
「昨晩、武力を以って国家転覆を企てた不届き者が多数、この王宮へと雪崩込んだ」
うん。リック、堂々たる態度だ!
リックの脇という特等席で見ているが、紹介されるまでは黙って座っている事になっている。
「我が兄である、ウゥゥ」
リックがここで声を詰まらせる。やはり兄が亡くなって悲しいのか。前国王とは和解していたそうだけど。
「お兄様!」
すかさずフローラが駆け寄る。昨夜の軍服姿から一変して、今日は礼装姿で目を引く!
重要な場なのにこの美しいフローラに釘付けで話が耳に入って来ない奴が必ず居るだろうな。
「お兄様はご無理をなさらずに」
「いや、そうはいかない」
「しかし少しの間、私にお任せ下さい」
フローラには俺とリックの話は伝えてある。俺が1人4役するって。
「昨夜、残念ながら国王陛下は逆賊の凶刃に倒れました」
フローラの口から告げられ、改めて貴族達に動揺が走る。
でも正確には逆賊に殺された訳ではなくて、炎の中から助け出すのを忘れたんだけどな。でもそれは口が裂けても言えない!
「緊急の王族会議の結果」
「このリチャードが王位に就く事となった!」
やっぱりザワつくよな。
俺としてはかなり脚色されている事と、リックとフローラのこの演出染みた台詞割が気になるのだけど。
「昨夜は同時に各閣僚も逆賊の手に!」
「しかし今は緊急事態、国政に穴は開けられん。そこで逆賊を炙り出す大役を担ったトルーマン公爵を宰相、近衛兵を的確に指揮して被害を最小限に抑えたホーキンス侯爵を国軍の最高位とし、余の懐刀であるエリクソン伯爵をトルーマン公爵の補佐役とする」
リックによる指名に応える形で俺の脇の3体の物体が動き出すと、仰々しくリックに跪く。
この3体、貴族の格好をさせているが中身はゴーレムだ。逆賊との戦いで顔に火傷を負った設定となっているので、仮面で顔を覆っている。
流石に顔が土の色って、顔色が悪いにも程があるってもんだからな。
動きは人間その物だし地位が地位だけに、仮面を取って見せろと言う奴は居ないだろ。
「リチャード殿下」
敢えてこう呼ぶ貴族も居る。誰だかは知らないが、見るからに不満顔だ。
「その様な事、到底納得いきません」
「リチャード殿下は論功行賞だけで要職をも固めるおつもりか!」
気持ちは判る。言っている事はマトモだ。逆の立場ならそうなるよな。
「お黙りなさい!」
フローラも怒りを隠さない。つい今判ったけど、美女って怒っても美しい。逆に言えば、美しくても怖い。
静まり返った謁見の間にフローラの声が響く。
「貴方がたは昨夜、何をされていましたか?」
貴族連中は顔を見合わせる。
「逆賊から残った王族を守り、そして逆賊を討ち果たしたお方こそ、この3人とこちらのエイジ様に他なりません!」
一気に注目されたんだけど!
このタイミングで挨拶すれば良いのか? いや、まだっぽい。
「先程の3人の忠臣とこちらのエイジ様がいらっしゃらねば今頃はどうなっていた事やら」
「そのエイジとやらは何者ですか?」
「我等と違って貴族ではないようですな」
「良くぞ聞いてくれた。このエイジこそが、偉大なる伝説の大魔道士シーナの再来であり、シーナの書いた魔導書を読める唯一無二の魔道士!」
「おお!」
貴族連中が慄いているけど、そんなにネームバリューが凄いのか! 流石は椎名さん!
「エイジ様にはホーキンス侯爵と共にスティード王国軍へ対応して頂きます。エイジ様の力量をお疑いならば戦場にて、その目でしかと見届けなさい!」
俺がスティード王国軍と戦う事は聞いてなかったと思う。
フローラよ、啖呵切るのは力量をしかと見られる俺に確認してからにしてくれ!




