恋敵? 死んだはずだよ アランさん
山火事発生を防いだは良いが、ソマキの村に帰るのは俺だけ遅くなってしまった。
もうすぐ日が暮れる。
諸々の説明は副村長がしてくれている事だろう。
さて、俺は馬上で今後の事を考える。
ご両親の最期の様子は、とてもじゃないがソフィには言えない。仇は取った事だけ言おう。
ステラにも4人目の婚約者の事は言うべきだろうし。
暫く考えていると、ソマキに着く。
ん?誰もいない。出迎えは無しか。
サプライズで隠れている訳でもなさそうだし、何か様子がおかしい。
まさか、盗賊の残党がいたのか?
馬にもう一頑張りしてもらって、村の中心部に急ぐ。
村の皆はこっちにいた。
何か、雰囲気が良い!お祝いムードだ!
そりゃそうだろう。長年、頭を悩ませていた盗賊が全滅したのだから!
それでは、ヒーロー登場と行きますか!
「ただ今、戻りました!」
俺が現れた途端、場が静まり返る。
えっ、何?急に訪れたこの静寂は?
盗賊を成敗した魔道士の帰還なんだけど。
「旦那!」
声を掛けて来たのは、カールの仲間の1人だ。
「旦那、お疲れ様です」
「お疲れ様。俺が来た途端に何か、微妙な雰囲気にならなかったか?」
「それなんですが、村長の所に行って下さい」
「ステラの?」
言われるがまま、ステラの家に急ぐ。この微妙な雰囲気は多分、良くない事。
「今戻った!」
家に着いた俺は、力一杯にドアを開けて急いで中に入った。
「エイジ」
「ステラ、盗賊はもう来ない!全滅させたぞ!」
「ありがとうございます。お疲れでしょう」
ステラが妙に余所余所しい。
応接室にしている広い部屋には、副村長にリックやカールも居る。盗賊に手籠めにされていた娘たちも居る。
あと、見ない顔の男たちが何人か居る。
「みんな、彼がさっき言った魔道士のエイジよ」
ステラが俺の事を話題にした様だが、態度がどうも変だ。
「聞いて、アラン」
ん?アラン?
「このエイジこそ、ソフィの新しい婚約者よ」
「そんなバカな!」
テーブルを叩いて立ち上がる若い男がいる。彼がアランか。
「エイジ、彼はアラン。ソフィの最初の婚約者よ」
あの微妙な空気の原因はこれか!
「アラン、生還おめでとう。戦死したと聞いていた」
俺はアランに握手を求めたが、応じてはもらえない。
「この通り生きてますよ。捕まって捕虜収容所にずっといました」
「捕虜?」
「ええ、この度その捕虜収容所が味方に落とされたので、戻る事が出来ました」
アランはぶっきらぼうに語る。今にも何か仕掛けてきそうな、殺気すら感じる。
その時、不意にドアが開けられ、ソフィが姿を現した。
「アラン、本当にアランなのね!」
「そうだよ、ソフィ!」
アランの態度がガラリと変わる。漂っていた殺気は何処へ行った?
「あー!ところでカール、戦利品はどうした?」
見つめ合う2人を邪魔する様に、敢えて大声で言った。
「旦那!それなんですが」
「カール、盗賊を全滅させる大爆発を起こしてきたから、爆音で耳の調子が悪い!大きい声で頼む!」
嘘だ。耳なんか全然悪くないが、この雰囲気をぶっ壊したかった。
「旦那!戦利品は全部しまいました!」
事情を知っているからか、カールが大声に付き合ってくれている。
「金は、村長に一任です!」
「そうか!」
「旦那が助けた彼女らですが、取り敢えずはソマキに居る事になりました」
俺は彼女らに視線を向けると、皆が俺に微笑む。
「エイジさんのお陰で私たち、人間らしく生きられそうです」
「良かったね!」
彼女たちとの会話は普通の声になってしまった。そこはふざけてられないので。
でも、彼女たちには今までの分を取り戻すくらいに、幸せになってもらいたい。
ふとソフィを見ると、妨害工作もなんのその。アランとずっと見つめ合っていた。




