生還し 魔力無くなり 抱きしめる
「ち…ちょっと……まて」
まだ貰ってもいない領地の話で盛り上がる俺達に向かって、力の無い声がする。そして俺はその声に覚えが有る。
「ラーイ!」
インフェルヌスの口に飲み込まれた時には死んだとばかり思っていたラーイが、ヨロヨロと頼り無い足取りではあるが自分の足で立っている!
そのラーイの足元にはまだ立ち上がるには至らないが、シルヴァも上体を起こしている。
こちらも死の淵より生還したって事だな。ミラとリックには感謝しかない!
それに見た目からして変わっている。前はラーイは褐色の肌に赤い髪、シルヴァは肌も髪も透き通る様に白かった。
それは精霊から何らかの影響を受けていた証でもあった筈だ。それがラーイは黒髪、シルヴァも栗色の髪に変わっている。その原因は直ぐに推測出来た。
「ラーイ、シルヴァ、お前たち良かったなぁ!」
「大将、良かったじゃねーよ! なにそいつと手を組んでんだ!」
ラーイが吠える。まぁラーイにしてみればアンドレイは自分とシルヴァの生命を奪おうとした敵だからな。
そんなアンドレイを配下に加えようとした俺も、ラーイとシルヴァにしてみれば裏切り者に見えるだろうな。
「貴方がたのお気持ちは理解出来ない訳ではございません。されど結果をご覧下さい。最終的には願ったり叶ったりではありませんか!」
俺を睨み付けるラーイにアンドレイは淡々と言う。
「何を言ってやがる!」
「あなた方の望みは伯爵より聞いておりました。お二人共、お互いをよくご覧下さい。お気付きではありませんか?」
アンドレイに言われて見つめ合う2人。一目瞭然なのに気が付かないのか? 本当に気が付かないのか? どさくさ紛れに見つめ合っているだけなんじゃないのか?
「なんかシルヴァ、顔色が良くなって綺麗になった?」
そっちかい!
いや、ある意味では正解だけど誰が惚気けろって言った!
「ラーイが大人しい。荒々しさが少なくなって気品が漂っています」
シルヴァ、お前もか!
「ここからは私が説明しましょう」
俺は困惑を隠せなかったのかな?
察したアンドレイが言い出してくれた。
「インフェルヌスが吸い取ったのはラーイさん、貴方の魔力源である微精霊です」
「微精霊だと?」
それは俺も知らなかった。精霊による何らかの影響があるとは聞いていたけど。
「私も全てを知る訳ではございません。しかし知る限りの事から推測される事を申し上げます」
確かにインフェルヌスの作者なんだから一応の信憑性は有ると言っていいだろう。
「ラーイさん、貴方は母親の胎内で精霊から何らかの影響を受けたと思っているかも知れませんが、それは精霊ではなく微精霊です。微精霊と融合していました」
「なんだって!」
「このケースは世界中で何例かございます」
「なんでそんな事を知っているんだ?」
学会とか有る訳では無さそうだから、アンドレイが知っているのはおかしくないか?
「魔族は魔力が強いので、魔法に関する珍しい事例に調査員として呼ばれる事も少なくありません。そして魔族は魔法のエキスパートとしての職を得るべく、魔族同士で情報を共有しているのてす。それで知っておりました」
そうか。力を合わせて生きているって本当だったんだな。
「この場合、微精霊に意識を支配される事が殆んどなのですが、貴方と融合した微精霊は意識の支配までは行いませんでした。しなかったのか、出来なかったのかは不明です。ただ、微精霊の意識が無いままではその魔力を制御仕切れません。結果として触る物をその気が無いのに燃やす事になりました」
「うーん、そうだったのか」
アンドレイの説明にラーイが腕を組んで首を捻りながら考えている。
「インフェルヌスが必要としたのは熱を起す魔力です。その為にラーイさんの微精霊による魔力は最適でした。そこでラーイさんを飲み込み、魔力を搾り取った次第です」
「シルヴァは?」
「シルヴァさんも微精霊に関しては同じです。ラーイさんと違う事は、触る物を凍らせていた事だけですね。ですがインフェルヌスにシルヴァさんの氷の微精霊は必要ございません。ですからご退場願いました。最期は魔力を全てシルヴァさんを守る為に使って微精霊は力尽きた様ですね」
「微精霊、私を守る為に!」
シルヴァはそう聞くと泣き出してしまった。
「おいお前、よくも俺とシルヴァの微精霊を殺ってくれたな!」
「微精霊の仇!」
何か変な流れになってないか?
「あの、貴方がたは微精霊に悩まされていたのでは?」
そう。それをコイツら忘れてるよ!
「微精霊が居なくなった今、何でも燃やす、凍らすと言った悩みはもう無くなりましたがご不満ですか?」
アンドレイのこの言葉にハッとしたラーイとシルヴァは改めてお互いを見合うと、指先でお互いをツンツンと突っ突いてみる。
「「あっ!」」
ようやく気が付いた様だ。魔力が無くなっている事に。
「大将は知っていたのか?」
「見れば判るだろ。ミラやリックもお前たちに触っているし」
判っていないのは本人だけとは。
「じゃ、これからは普通に生活出来るんだな?」
「はい。これで私を恨まないで頂けますか?」
「心の友よ!」
アンドレイに駆け寄ろうとしたラーイであったが、足がもつれて転んでしまった。
そんなラーイにシルヴァが駆け寄ると、何も言わずに抱き合った。
事の経緯は兎も角、結果的には良かったな、2人共。




