知ってます? 取らぬ狸の 皮算用
「確かにそうなりますね」
意外な事実に納得したのか、フローラがこうとだけ呟く。
ミラと共に、ラーイとシルヴァに治癒魔法を施しているリック本人と俺達とは多少の距離がある。だからこの会話は聞こえない。リックは今も2人に治癒魔法を施している。
「そうか、リックは王様になるって事は、これからはきちんとしないとな」
正直、王様に対する礼儀なんて身に付く自信なんて無い!
王弟でも微妙だったのに。
「エイジ様、どうかお兄様にお力添えを!」
フローラが俺の右手を両手で握って来た。近いんですけれど、お姫様!
この美女に不意に近付かれたらヤバい!
「判った。取り敢えず落ち着こうか。クーデターは終わりだ」
「クーデターはまだ終わってはおりません!」
「いやいや。スティーブ殿下ももう大丈夫だし、トルーマン公爵やエリクソン伯爵も死んだ。統率者が居なくなったし、魔族のアンドレイだってこっちに付いた。もう終わりだろう」
「いえ、まだです! まだ残党狩りが残っています。クーデターに加わった残りの貴族達が居ます。この際です、王家に盾突く者は一網打尽に滅ぼすのです!」
フローラは「フッフッフ」と鼻だけで軽く含み笑いしている。
お姫様にそれは似合いませんよと言いたいが、それは留めておく。
「私達のお母様はレイス子爵家の出身です。ですのでお兄様には後ろ盾となる有力な貴族が居りません。そこでエイジ様にその者達を成敗して頂きたいと存じます」
俺にクーデターの残党狩りをしろと? 結構物騒な事を言うお姫様だな。
「現在のエイジ様は、お兄様が即位した暁にはかなりの領地と爵位が約束されている状態です」
「領地と爵位?」
「単純に考えまして、約半数の貴族が断絶となります。それらの貴族の領地、論功行賞の対象者がエイジ様とレイス子爵等の1部の貴族しかいらっしゃらないのです!」
確かにクーデター阻止に動いた諸侯は殆んど居なかったけど、事が事だけに情報の共有が出来なかったからな。
「ですから是非、謀反人を根絶やしに!」
「それでしたら妙案がございます」
今度は跪きながらアンドレイが提案してきた。
「先ほど「アンドレイだってこっちに付いた」と仰って頂きました。家臣団に加えて頂き、初めてのお役目」
つい言っちゃったけど、こうなったら仕方ない。はぁ、魔族が家臣か。寝首を掻く様な真似はしないだろうな?
「で、何か策が有るのか?」
無きゃしゃしゃり出ないだろうけど。
「クーデターに参加した貴族には、罪を不問にすると伝えるのです」
「不問にする? 有り得ません!」
フローラがかなり興奮している。ほぼ何時でもクールなリックとは兄妹でもやっぱり違うんだな。放っておいてアンドレイの話を聞こう。
「何か裏が有るのだろう?」
「はい。北の国境ではスティード王国が今にも攻め込んで来るでしょう。或いは既に国境を越えている可能性も低くはございません」
「あっ、でもスティード王国軍の目的は王国陸軍を引き付ける事だよな?」
「御意。クーデター軍と示し合わせております。報酬はディラーク王国の領地の割譲です。されどスティード王国の本音は条件以上の領地、あわよくばディラーク王国北部全ての征服です」
「それで不問にしたクーデター軍をスティード王国に当たらせる訳か?」
「御意。「働き次第で不問にする。更には御加増も有る!」と伝えるのです」
それでちゃんと働く連中なのか?
「確かにそれで働くかも知れない。しかしクーデターに参加した連中だぞ。裏切ってスティード王国軍と一緒になったりしないか?」
「直ぐ後ろに王国軍を配置します。そうなれば彼等は裏切った瞬間に王国軍と対峙します。何方に付いても矢面に立たされるのです。ならば何方に付けば良いのかなど、一目瞭然!」
なるほどとは思ったけど、そういう事は将軍とか軍の偉い人が決める事だ。
「アンドレイとやら」
今更感満載だが、如何にもお姫様って感じでフローラがアンドレイに声を掛ける。武装しているお姫様に跪く魔族って中々見られないよな。
「その策、私が将軍に伝えましょう。そして実行させましょう。エイジ様の発案として。宜しくて?」
「王女殿下の仰せのままに」
「これで裏切り者とスティード王国という邪魔者は一掃出来ます。そうなるとエイジ様の領地は如何ほどになるのかしら? アンドレイとやら、エイジ様から魔族自治領として土地を頂くといいわ。エイジ様にはその分を上乗せしましょう。男爵領並で宜しくて?」
「はっ! 有難き幸せ!」
何か勝手に領地の話が進んでいる!




