魔界とは 頭の中で 思う物
「つまり、俺の配下になりたいと」
「御意」
でもアンドレイは魔族だよな。良いのか?
「でもな、生憎だが俺にそのつもりは無い。今回お前はエリクソン伯爵と契約して、その意に沿った行動なんだからお前とこれ以上戦うつもりも無い。このままおとなしく帰ってくれ。追撃とかしないから」
魔族との戦いって矢鱈と苦労しそうだ。イメージだけど殺しても死なないとか、呪いで苦しむとかで凄い消耗戦って言うか、長期戦になりそうで遠慮したい。
「いえ、臣下にして頂けなければ帰れません」
「何故だ?」
今までとは打って変わって真剣な表情と気迫だ。何か事情が有るのか?
「帰る所はございません!」
「魔界に帰ればいいだろ!」
「魔界? まさか当代一の魔道士がそんな物を信じてはいませんよね?」
「えっ? 魔界って無いの?」
「はい」
俺がそんな事を言ったからアンドレイが凄い意外そうな表情をしているが、魔族って魔界から来たんじゃないの?
「魔族は魔界から来るなんて迷信です! 私は山間の集落で産まれ育ちました!」
何かイメージ狂うな。
「集落では皆で力を合わせて自給自足の生活を送り、慎ましく暮らしておりました」
力を合わせて慎ましい自給自足の生活? 魔族が?
「聖女アリアや、偉大なる伝説の大魔道士シーナに倒された魔族はどうなのです。魔界から来たのでしょう?」
引き続き俺の傍に居るフローラが聞いた。記録では確かに世界征服する勢いだった筈だ。
「自給自足の生活は異常気象で破綻します。我々魔族は人族よりも強い魔力を持っていますが、流石に大自然は操れません。あの時もそうだったと聞いております」
あの時って、聖女アリアや椎名さんが活躍した200年位前の事か。
「飢えに耐えきれずに街に出た者が食料を得る為に魔族の力を誇示した。そう伝え聞いております」
何か聞いていた昔話とは少し違う気がする。
「聖女アリアとは魔族が起こした嵐の中で対峙していたと思うんだが」
「ですから、その嵐が異常気象なのです。その他につきましても色々と脚色されていると推測されます」
「それじゃ魔界は存在しないと?」
「魔族が魔界云々言ってもそれは全てハッタリです!」
アンドレイはその表情に一点の曇りも無く、堂々と言い切った。
「それじゃインフェルヌスが魔界の業火から生まれたって言うのも?」
「ハッタリと申しますか、心意気と申しますか」
キャッチフレーズのつもりか?
心なしか、遥か上にいるインフェルヌスがバツが悪そうに燃えているかの様に見える。
まぁ良い。次の質問に行ってみよう。
「戦いの最中にお前は、戦争が起こるくらいに世界が混乱する事が魔族の願いみたいな事を言っていたが?」
「我ら魔族は人族から見れば異形の存在。過去には人族より忌み嫌われ迫害を受けて参りました。その反動で人族に対して暴挙に出る者もおりまして、更に魔族は嫌われていった歴史がございます」
「それで」
「各国で争う事になりましたなら、嫌われる事で誇張された魔族の力を欲する国もございましょう。そこで魔族の誰かが領地を頂ける活躍をして、その領地を魔族の自治地区とします。そうなればもう隠れ住む事もございません!」
魔族による自治地区の創設。それが狙いか!
「今こそ自給自足の暮らしに終止符を打つ時なのです!」
山間で自給自足って事で、アンドレイみたいな魔族が山菜やキノコを採取している姿を想像してしまった。魔族のイメージが!
「それで何故、俺の配下になりたいと?」
「現状、失礼ながら配下の者はそれほど多くないとお見受け致しました。なので重きお取り立てを頂けるのではないかと勘ぐった次第です。そして貴方様はこの戦いの後に広大な領地を得る筈でございます。その暁には私にも幾らかの知行地を頂けるかと」
「いや、俺は市民による義勇軍みたいな感じだから領地を貰えるなんてそんな」
「何を仰られますか。国王陛下がお亡くなりになり、スティーブ殿下はクーデターの経緯からして目はないでしょう。そうなると次に即位されるお方は、ご昵懇のリチャード殿下しかいらっしゃらないではありませんか」
確かに消去法だと、リックが次の王様?




