魔族でも 就職活動 するんだな
「アンドレイ、鎧はどうした?」
「クククッ。さぁ、私には判りかねます。しかしあの鎧は身に付けた者の欲望に反応します。恐らくは違う主を求めて行ったのではないでしょうか」
新しい欲望か。何処の誰なんだろうな。疑問は残る。
「おい、鎧が勝手に動くのか? スティーブにはお前が用意したんだろ?」
「あの時は眉唾物の骨董品で、闇のエネルギーが空っぽでした。高値で売り付けるいいカモがいて喜んでいたのですが、スティーブ殿下の欲望に反応しまして予想以上の性能でした。ええ、私も驚きました」
「よく判らん。どういう事だ?」
「あの鎧は人の心の闇を吸収し自らの力とします。それが空で置物でしかなかったのですよ。しかしスティーブ殿下の欲望により満たされました。それにより、強い闇を求めて自らの力で彷徨える様になったのでしょう」
「何処に行ったのか判るか?」
「クククッ、そんな事知る由もございません。せいぜいお気を付ける事ですね」
このアンドレイ、結果的には質問に全て答えてくれている。
どうせならこの流れでクーデターに関わる事は聞いておこう。
「アンドレイ、話を整理したい。最初にお前がエリクソン伯爵に召喚されて来たのだな?」
「ええ。確かに私はエリクソン伯爵に招かれました。そこでエリクソン伯爵の野望を聞きましてね、サポートをする契約を結びました。クククッ」
「その野望は、スティーブ殿下を王位に据えて国を牛耳るって事だな?」
スティーブは正気を取り戻したので一応、殿下と呼んでおく。
「ええ、その通りです。暗愚な王族を担いで利権を貪る。その為に現状に不満を持つ貴族を集めましたら全貴族の半数近くが呼応してくれました。皆様、欲深い、あっいえ、向上心旺盛でして。クククッ。罷免され要職から外されていたトルーマン公爵様々でしたね。皆様をご紹介下さりましたので。お陰で国を分つ内戦を起すには十分な数でしたよ。クククッ」
国の半数の貴族が腐っていたって事か。それで、その手の貴族に顔が利くのが公爵。
それにしても罷免? あの公爵は何をしでかしたんだか。
「クククッ、クーデターに参加された皆様には漏れなく私の意に沿って動いてもらえる様にしました」
「陰魔法か?」
俺も使うけど、使い方は違うみたいだな。
「断わっておきますが、傀儡として完全に自我を奪ったりはしませんよ。ええ、そんな非人道的な事は致しませんよ。それぞれの欲望を刺激してやっただけです。クククッ」
「欲望を刺激?」
「ご自身の利権の為になりふり構わなくなりました。その他には性欲や物欲が強くなり抑えられなくなります」
そうか、だから伯爵を相手にセクシー映像を見せてやったら、自身の危機だと言うのに食い入る様に見ていたのか。あのスケベめ!
「スティーブ殿下にあの鎧を着せた理由は?」
「先ほども述べましたが、鎧その物は骨董品でした。スティーブ殿下に於かれましてはお覚悟を決めて頂く為の演出の意味合いが大きかったのですよ」
「それが思わぬ効果が有った訳か」
クーデターの経緯は大体判ったかな。
エリクソン伯爵に呼び出されたアンドレイによって、自制心を失った貴族達が引き起こした。
スティーブについては政権奪取後にクーデターを正当化する為の存在でしかなかったんだな。
後はアンドレイにお引き取り願うだけだな。魔族とは戦いたくない。不気味だし。
でも念の為にアンドレイの情報をサラッと聞いておこう。
今のアンドレイはきっと、何を聞いても答える!
「貴族達の欲望を掻き立てたのはやっぱり陰魔法なんだろう。お前の属性は陰なのか?」
「ええ。我々魔族は陰属性と何か違う属性の魔法を使います。例えば私、陰属性と炎属性の魔法を使います」
なるほど。如何にも魔族って感じだな。
「その他にも私は、先ほどの様に魔物を作り出し、使役出来ます。魔物ではありますが使いようによっては人々の暮らしにも、お役に立てるかと存じます」
クククッとか言わなくなって、何か急にアンドレイの自己アピールの場になったな。
「何が言いたい?」
「単刀直入に申し上げます。家臣団の末席を汚す事をお許し下さい」
「なに?」
どうしたんだ? ニヤけていた口元は引き締まり、喋り方まで変わっている。
「必ずや、お役に立ってみせます!」
事態が上手く飲み込めんのだが、魔族のアンドレイが転職先として俺を選んだって事か?




