フローラが 妹キャラで 脱がせます
先ずはスティーブの思いを整理してみよう。
腹違いの妹であるフローラが好きだ。
しかしそれは兄妹による禁断の愛ではなくて、ただ単に「お兄ちゃん」と言って欲しかっただけ。
好きだから構って欲しくて意地悪く接するなんて、小学生男子か!
しかし「お兄ちゃん」とは王侯貴族は使わないし、平民でも使うのは子供だ。
そこにスティーブが拘る理由は不明だが、付け入るチャンスの到来だ。スティーブ自身の手で鎧を脱がさせよう。
「頼む。俺の指示する通りにスティーブに呼び掛けてくれ」
「畏まりました」
そう言って小さく頷くフローラの表情は強張っている様に見える。割り切ってくれ。
「何と申せばよろしいのでしょうか?」
「「もう、お兄ちゃんったら!」って明るく言ってくれ」
「はっ、はい」
フローラが頻りに恥ずかしがりながらこの台詞を言おうとするが、口に出す直前に黙って俯いてしまう。何度かこれを繰り返してようやく教えた台詞を口にする。
「もう、お兄ちゃんったら」
堅いな。でもまぁ、棒読みじゃないだけマシか。初めてにしては及第点かな。
「カッタ」
勝った? 何に勝ったんだ?
「リチャードハ「お兄ちゃん」とヨバレタコトガナイ。カッタ」
確かにリックはフローラからは「お兄様」と呼ばれているけど、それが勝負になるのか?
逆に言えばスティーブは、自分が勝手に設定したこの勝負でしかリックに勝てないのか?
まぁいい。ここは勝利の余韻に浸っているスティーブを持ち上げてみよう。
「うん、お兄ちゃん凄い!」
これもフローラに言わせてみた。スティーブの奴、その気になってきた様だ。
取り敢えずはかなり話す様になってきた。そこで先ずは兜を脱がせよう。
「お兄ちゃん、お話しにくいよ。兜を脱いで」
これも言わせた台詞。鼻にかかる声がコツだ。
「シカシ、コレハ」
「「お願いお兄ちゃん」これを上目遣いで言え! さり気ないアクセントに気を付けろ」
「承知しました!」
フローラはこうやって指示に答える時だけ矢鱈と気合いが入っていると言うか、殺気立っている。凄いギャップだ!
この只ならぬ殺気は言わせている俺に向けられている気がして仕方がない。
って言うか、俺だって指示する時には全く同じ口調なのだから勘弁してくれ!
「お願いお兄ちゃん」
何だかんだ言ってもお姫様なのにフローラはやる事はやってくれている。頭が下がる思いだ。
国民にこの姿はとても見せられないが。
「シカタナイナ」
狙ってはいたけど、本当に脱ぐのか!
凄いシスコンになる素養を十二分に発揮したスティーブは、あっさりと漆黒の兜を脱ぎ捨てた。
「すまない、フローラ」
先ずは謝罪を口にしたスティーブ。 鎧による精神の支配は兜を脱いだだけで解けたのか?
兜を脱いだスティーブの素顔を拝める様になったのだが、あれ? 予想外に男前だった!
超イケメンのリックに比べるのは可哀想だけど、普通に見てくれは悪くない。王族って美形の家系なのか?
「すまないフローラ、そしてリチャード。俺はどうかしていた」
「スティーブお兄様!」
「フローラ、そこは引き続き「お兄ちゃん」で頼む」
「お、お兄ちゃん…」
スティーブ、欲望のままに行動した事で吹っ切れたみたいだな。
フローラは兄からの要望とは言え、改めて言う事にまだためらいが有る様だ。
だがそんな恥じらうフローラにはまだ働いてもらわなければならない。漆黒の炎はまだ消えていないのだ。
「ウッ、ウウ」
不意にスティーブがうめき声を上げた。どうやら兜を脱いだだけだと完全には鎧の支配から開放されない様だ。
だが兜は脱いだんだ。この調子で行こう!
「よし、このままスティーブの鎧を脱がせよう!「お兄ちゃん、鎧も脱いで」と甘ったるい声で」
「はい」
やっぱりフローラは妙に気合いが入っている。
「お兄ちゃん、お願い。その鎧も脱いで」
「しょうがないな」
とか言いながら嬉しそうに鎧を脱ぎだした。甘ったるい声を震わせるなんて指示には無かった。多少のアドリブも入ってるし、フローラもだいぶキャラを掴んできたな!
「ウォォォ!」
スティーブが吠えながら鎧を脱ぐ。鎧に支配されていた割にはあっさり脱ぐな。
「今のスティーブ殿下は、妹君の為に脱ぎたいと強く思っています。その思いが鎧の支配に勝ったのでしょう。クククッ」
説明をありがとう、アンドレイ。
「フハァ!ハァハァ」
スティーブが鎧を脱ぎ終わると黒い炎も消え、残されたのは肩で息をするスティーブだけだ。
「大丈夫ですか? おにいさ、お兄ちゃん!」
「大丈夫だ。今はむしろスッキリしている」
「何故、こんな鎧を? あら?」
何かに気が付いたのか、スティーブに駆け寄ったフローラが頻りに辺りをキョロキョロしている。
「どうかしたのか?」
「何処にも有りません」
「何が?」
「鎧です。兜もですけれど、あの漆黒の鎧が見当たらないのです!」
確かにスティーブに気を取られていたが、目を離した隙に鎧が消えている!




