存在感 無い王弟が 動き出す
先程、誤って書きかけの状態で投稿してしまいました。
申し訳ありませんでした。
インフェルヌスのブレスを浴びたシルヴァを見られなかった。
正確には見たくなかったのかも知れない。そこに広がっているであろう無惨な光景を。
それでも何とかシルヴァに視線を戻すとまさにその時、カムストックでは防げなかったブレスを全身に浴びたシルヴァが音も無く倒れた。
「うっ!」
余程の高熱だったのだろう。申し訳無いが、痛々しくて見ていられない位に全身が焼けて黒ずんでいる。
シルヴァの傍らでは、頼りにしていたカムストックが余りの高熱で、見るも無惨にひしゃげている。
それを見て、ただ悲しかった。ようやく結ばれる目処が立ったラーイとシルヴァが揃って死んでしまった事に。
そして怒るとしたら見殺しにしてしまった俺自身にだ。
ラーイ達の言い分など聞かずにもっと出しゃばってでも俺が戦っていればと思うとインフェルヌス、それを操るアンドレイよりも自分に腹が立つ。
「エイジ、ミラが何かを叫んでいます!」
インフェルヌスかアンドレイのどちらからか、或いは両方を一気に攻めるか考えていると、リックが教えてくれた。
国王を守る結界を張っているミラとは少し距離が有るからリックに教えてもらうまで判らなかったが、ミラは何を言っているんだ?
俺は身体強化魔法を自分に掛ける。これで聴力も向上する筈だ。それじゃミラの言う事をよく聞いてみよう!
「エイジ、その2人はまだ生きているわ!」
「いや、この2人は」
「まだ生命は消えてないわ!」
凍て付く様な殺気を感じる。よく見れば、これまで見下す様に余裕の笑みを浮かべていたアンドレイが、表情を一気に険しくしてミラを睨み付けていた。
理由は知らないが、ミラに敵意を露わにするなら叩き潰しておかないとな。
「ミラ、この2人は下手に動かせないぞ!」
だがその前にラーイとシルヴァだ。この2人を何とかしなければ。
「私がそっちに行くわ!」
そう言うとミラは国王を守っている結界を解除してこっちに向かって来た!
「おい、陛下はどうするんだ!」
「瀕死の人が居るのよ! そっちが最優先よ!」
「しかしだな」
「国王だろうと何だろうと、五体満足な成人男性なら自分の身は自分で守って! 判った?」
自分が最重要人物だと認識している国王はミラにそう言い捨てられて半ば呆然としている。
恐らくは、そんな扱いを受けた事などないのであろう。
「仕方ありませんね」
今度はリックも結界を解除してこっちに向かって来た。こちらは守っているのはゲイリーだけになったから、まぁ納得か。
「ディック、陛下をお守りしろ。王宮魔術師の名にかけて!」
「畏まりました。陛下、このディックことリチャード=レイス、身命を賭して陛下をお守り致します」
まぁ、国王もいきなり自分の身は自分で守れと言われても難しいだろうしな。国王と同じくミラの結界の中に居たディックに守られるしかないだろう、
ディックの頼もしい言葉を聞いた所で、ラーイとシルヴァにミラとリックが手を翳す。
「2人共かなり弱々しいわ。どっちかを優先したら、もう片方が死んでしまいそう!」
俺も救命活動に加わりたいが、インフェルヌスとアンドレイの相手をしてやらなければならない。
後ろ髪を引かれる思いで前に出る。
「今度は俺が相手だ!」
アンドレイに対峙すると何故か気持ち悪い笑みを浮かべやがる。何を企んでいるんだ?
「お止め下さい、スティーブ殿下!」
ディックの悲痛の声が響いた。慌てて声の方を向くと漆黒の鎧に身を包んだ王弟のスティーブが国王に斬り掛かっているのをディックが必死に止めていた。
存在感が無いから忘れていたけど、そう言えば同じ玉座の間に居たなぁ。
身体強化で聴力も強化されているから判るが、そのスティーブは何か呟いている。
「オマエサエイナケレバ」
お前さえ居なければ? 兄である国王が居なければ自分が国王になれるって言いたいのか。
「シネ!シネ!シネ!シネ!」
スティーブは何かに取り憑かれているかの様に、ひたすらそう呟いて剣を振るう。
それをディックが辛うじて防いでいるが、剣の間合いだ。魔術師には分が悪い。
クソっ! 国王を守りに行けばラーイとシルヴァの蘇生に取り掛かっているミラとリックが無防備になる!
ここから狙っても良いのだが、インフェルヌス相手に隙を見せたくはない。
せめてもう1人、戦える人間が居れば。
「遅くなりました。こちらはお任せ下さい!」
こんな状況には不似合いな澄んだ声が響く。
声の主は直ぐに判る。先ほど身体強化をして剣を振るっていたリックの妹、フローラがスティーブに向けて剣を構えている。




