ゲイリーの 悪さの理由に 裏がある
「何故ゲイリーがここに? そして何故、彼を助ける必要が有ると言うのですか?」
流石のリックも混乱している様だが、それも無理は無いか。
実の甥から随分と蔑まれているけどゲイリーはリックにとっては叔父になるのかな?
兎に角、王家の恥とも言えるゲイリーが今回の一件に関わっていれば今度こそ死刑を含めた処罰は免れないだろう。
「なぁリック、ゲイリーは不思議な奴だ。どういう理由なのかは知らないが他人の罪を被っている、と俺は見ている」
「エイジ、何を言っているのですか?」
リックは大きく目を見開いて聞き返してくる。俺の言った事にかなり動揺している様だ。
「まぁ聞いてくれ。ゲイリーの行った数々の所業、その殆んどが女絡みだ。後は金か」
リックはコクリと無言で頷く。
「次から次へと、幾ら何でも節操が無さ過ぎないか?」
「それが問題なのです。節操などありませんよ、彼には」
リックは呆れた様に言い放つ。
「この王都に来る前だ。エリクソン伯爵領の領都の娼館で少し話をしただけだけど、悪い奴っぽくなかったんだ」
「それが理由ですか?」
予想はしていたがリックは不満顔だ。当たり前か。
「その時に変な事を呟いていたんだ「隠れトルーマン派がまだ揃っていない」的な事を」
あの時は複数の娼婦を相手にするハーレムプレイだったから思いっ切り身体強化魔法を使っていた。
それで聴覚も強化されていたから聞けた様なもんだ。
「その後は颯爽と居なくなったから、残された娼婦に話を聞いたんだ」
ゲイリーは推定50代。どっちが気持ち良かったか、負けたくない一心で娼婦達に聞いてみた。
別に自分のテクに自信が無い訳じゃないぞ!
「そうしたらゲイリー、実は話をしただけで娼婦に手を出していなかった事が判明したんだ」
「何ですって! あの色欲に塗れたゲイリーが?」
風俗で嬢に「こんな所で働いてたらいけない!」って説教する客だって説教した後にちゃっかりサービスを受けるのに、ゲイリーはそんな事はしないで話をしただけだった。これは本当に以外だった。
お陰で、お預けくらった残りの娼婦の相手も俺がする事になって、娼婦の1人がポロッと口裏を合わせる様に言われていた事を漏らしたんだが。
「どういう事かと考えてみた。女への興味は有るが寄る年波には勝てずに使い物にならなくなったのか、それとも或いはもしかして」
ここでゲイリーを拘束していたウォーターボールを解除してやる。ウォーターボールが形を失い周囲が水浸しになる中、ゲイリーはバランスを崩し四つん這いになりつつ俺達にその顔を向ける。
そんなゲイリーにも聞こえる様に言ってやる。
「そういうキャラを演じていたんじゃないかって!」
「何ですって!」
「おい魔道士、それにリチャード」
ここでゲイリーも会話に参加して来た。
「詮議は不要! トルーマン公爵派に担がれた王族として成敗される覚悟は出来ている。スティーブが国王となり俺は大公。この甘い戯言で担がれた間抜けな王族としてな!」
拘束された貴族達の喚き声で満たされた中でもゲイリーの声はよく通る。その表情は何処か晴れ晴れとしている様にも見える。
「待て!」
今度は国王の声が響いた。
「叔父上、もう結構です。自ら汚名を浴びつつ、この情けない王を支えなくても」
「陛下、それはどういう事ですか?」
「リチャード、お前は知らないと思うが叔父上は……」
ドォドドッドォォォン!
国王が何かを言おうとする事を阻むかの様に、玉座の間を激しい振動が襲った!
「何だあれは?」
「ドラゴン?」
ラーイとシルヴァが指を指す方には乗用車位の大きさで、赤黒いドラゴンの様な魔物が四つん這いで、ノッシノッシと歩いている。
炎に特化した魔物だな。見るからに。
「あつっ、熱い!」
「うああ!」
何という熱量だ! 側を通っただけで下半身を水で拘束されている貴族達の上半身が燃えている!
下半身だって既にウォーターボールで拘束出来ないくらいに小さくなっている!
って言うか残っているのも熱湯に違いない!
「あれはサラマンダーでしょうか?」
「その割には身体も大きいし、火力も強い様だ」
シルヴァの問い掛けにリックが答える。
「リックはサラマンダーを知っているのか?」
「ええ。討伐隊に治癒係として参加した事があります。その時のサラマンダーとは大きさも強さも違う様です」
そうだよな。確かにサラマンダーってトカゲだよな。火は吐いても。
コイツはトカゲって大きさじゃないぞ!
「当たり前じゃないですか。私のかわいいサラマンダーなのですから。普通のサラマンダーと一緒にしないで下さい。さぁ、今度はこの子と遊んで下さい」
サラマンダーの陰から伯爵軍の不気味なテイマー、アンドレイが姿を現した。




