兄弟で お互い売り合い 罵り合い
「お前達がエリクソン伯爵の次男と三男だな?」
玉座の間の隅に居る2人に近付いて判ったが何も発せられないこの兄弟は、2人揃ってその目は恐怖で滲んでいる。
「おう、大将が聞いているだから答えろ!」
怯え切っている2人にラーイがズカズカと近付くと、2人の目付きが変わった。
「おっ、お前は父上が雇い入れた者ではないか!」
「この恩知らずの裏切り者め!」
余りにも特徴的なラーイを見て、元は自軍の者だと判った様だ。シルヴァの事も判るだろう。
「よく言うぜ。オメェらの親父は口先ばかりで俺とシルヴァの事をどうする事も出来なかった。でもな、大将に着いて行ったらすぐ何とかなる目処が着いたぜ!」
「まっ、お陰で着くべきお方に出会えた訳だけどね」
魔力を抑える剣、カムストックは全てが片付いた後にはラーイとシルヴァに下賜される事が決まっている。これが有れば晴れて2人は結ばれる訳だ。
「待て、そこの魔道士。知っているぞ、そもそもお前は我が領民だろう!」
「領主一族にこんな事をして許されると思っているのか!」
最早この事については答えるのも嫌になってきたな。
「ラーイ、シルヴァ」
「おう大将!」
「仰せのままに」
この2人は言わなくても俺の思いを共有してくれていた。その証拠に、それぞれウォーターボールに手を翳す。
「程々にな」
そう指示してから数秒後だった。
「あっち! あつっ!」
「つめっ、冷た! 冷たい!」
それではこれからお互いに兄弟を売ってもらおうか。
「領民の払う税で食わせてもらっている連中が何をほざくか。民を守るべき貴族が民を守るどころか、民を襲う盗賊を裏で操っていたとはな」
兄弟揃って無言で睨み返してきた。そんな事には構う必要も無い。
「だがそれはお前らの親父のしていた事だ。と言う事にして、どっちか1人だけ素直に白状した方だけ助けてやる。兄弟を売って生き延びるのか、ボイルされるか氷漬けになるのかは選ぶ権利をやろう」
「待て!」
「俺達は指示に従っただけだ!」
エリクソン伯爵の次男と三男は必死に叫ぶ。早速、効果が有った様だ。
少しは自分の状況を理解出来るらしい。
「誰からどんな指示だ?」
「父上だ!」
「軍を率いて王都を占拠しろって」
エリクソン伯爵か。予想通りだな。そして予想以上に、競う様に白状してくれる。
「王宮を占拠したのも?」
「それはトルーマン公爵閣下の指示だ」
「公爵閣下の軍はランバート王国との国境へ向かった王国陸軍が王都に戻らない様に足止めをしているから、我等が代わりに王都へ攻め込んだ」
「おい、詳しくは俺が言う! お前は黙っていろ!」
「兄貴こそ黙っていろよ! 大体、兄貴がちゃんと王宮を占拠しないから、魔道士に乗り込まれたんだろう!」
「うるさい! 弟のくせに! それを言うならお前が王都市内をしっかり抑えておけば、その時点でこんな事にならなかったんだ」
コイツらにはこんな罵り合いがお似合いだ。
それにしても奴等の作戦だが、ご丁寧に公爵軍が王国陸軍の足止めか。
だが戦力は王国陸軍の方が上だろう。程良く時間を稼いで撤退するつもりか。
「そしてここに居る諸侯の軍が北のスティード王国との国境に向かった残りの陸軍を背後から襲う!」
「スティード王国は我等と通じている。きっと今頃はハサミ打ちだ!」
次男と三男が突然、威勢が良くなった。
「お前達、そんな事をすれば政権を取ったとしてもスティード王国に付け入られるぞ!」
「そんな事にはならない。スティーブ殿下が即位された暁には我等に歯向かう連中は全員処刑」
「そいつらの領土の一部を割譲する事でスティード王国との話は着いている!」
そう言う事か。国にとって大事な領土を渡してまでも王位が欲しいなんて。
「なぁリック、国王陛下はミラが守っている。だからリックは自分とその2人を守る結界を作ってくれ」
「その2人?」
「ラーイとシルヴァだ。あ、いや。もう1人だ」
「エイジ、一気に全員を始末するつもりですね。ですがまだ聞きたい事が有ります。それに守るべき者はもう居ませんが」
「いや、1人居るんだ。あっち側に」
俺の視線の先には見覚えの有る男が居る。水で下半身を拘束されて。
この反乱分子を捕らえ易い様に纏めてくれた人物。
「あれはゲイリー!」
数々の悪行から王位継承権を返上せざるを得なかった王族、ゲイリーがそこには居た。




