真っ先に 殺した相手は トルーマン
来た道を戻って向かうのだが、玉座の間には国王の他にミラとディックが居る。
ディックは兎も角、多少なりとも相手が強くてもミラが居ればさっきの様に国王が剣で刺されているなんて事は無い筈だ。
「ミラ!」
ようやく玉座の間に到着した俺の視界に飛び込んで来たのは、ざっと見て20人程の男達に囲まれながらも結界を張って国王を守っているミラの姿だった!
「大丈夫か?」
「はい、何とか!」
答えたのはディックだ。お前には聞いてない!
「エイジ、この人達を何とかして!」
結界を張っているミラが声を張り上げる。言われなくても何とかしなくちゃな。
ミラが張る結界はミラに害を成すもの全てを排除出来る。魔法も物理的な攻撃も。
その気になればこの連中を跳ね除ける事も充分可能だが力加減が難しく、実際の所ミラはコントロールが上手くない。
下手をして相手を殺しかねない事を危惧しているのだろう。
まぁ殺したとしても構わなそうなこの連中、揃いも揃って身なりはきちんとしている。どうやら貴族の様だ。
「エイジ、彼等はトルーマン公爵の一派です。どうやら役者は揃った様ですね」
「トルーマン公爵も居るのか?」
「はい。そして奥に居る漆黒の鎧を着ている者こそ」
「スティーブなんだな?」
「はい」
そう答えるリックは、何か覚悟を決めたかの様な眼をしている。
「エイジ、公爵らは事情聴取をするので可能ならば生け捕りにして下さい」
「公爵ら?」
「はい。そして兄のスティーブは殺して下さい。この場で!」
「リック?」
驚いて思わず聞き返す。まさかリックが兄殺しを依頼してくるとは。
「国王陛下に剣を突き刺した者が王族だなんて事はあってはなりません。王家の威信が揺らぎ、国が乱れる原因となります」
王弟が剣を刺して国王を殺しかけた。この事実が外に漏れれば国家としては拙い事になる。
このトルーマン公爵一派は国家転覆を狙うくらいだからそれなりの力が有る筈だ。
王家のお家騒動から内戦に発展すればどう転んでも国の弱体化は否めない。
そうなると南のランバート王国、北のスティード王国も入り混じっての混戦となり、戦乱が長引いてそのまま国家滅亡なんて事も有り得る話だ。
「了解した。本当にいいんだな?」
「お願いします。彼には名誉の戦死となってもらいます」
「どういう事だ?」
「公爵一派の反乱を止めようとして討たれた名誉の戦死と記録します。これで兄の名誉も守られますし、国家も盤石です」
それで良いのか? と言う思いは有るが、勝者による記録の改ざんなんて世界中いっぱい有るしな。
リックはもう腹を括った様だ。なら付き合うしかないだろ!
「それじゃ先ずは貴族連中から」
目の前に居る国王からさっき名付けられた魔力を増幅させる剣、バナザードを抜くと切っ先を貴族連中の方へ向ける。
今回は動けなくなる様にするだけなので、ウォーターボールを使って拘束する。人数も多いからバナザードを使っての連射だ!
「なんだこれは?」
「うっ、動けん!」
「離せ!」
ジェル状の水の球が貴族達に当たると、そのままその場に留まって身体の自由を奪う。俺のレパートリーの中では、拘束する時はコレだな。
「離さんか!」
「無礼者め!」
「ワシにこんな事して只で済むと思っているのか!」
呼吸は出来る様に顔は避けてやったが、それ以外はほぼ完全に水で覆われている。なのに口の減らない奴等だ。
「煩い連中だ。その水を凍らせてやろうか!」
少なくともコイツらには、それを躊躇する理由は無い。
「出来る物ならやってみろ!」
ああ。コイツらは自分達の立場を判っていないんだな。自分の生命を握っている人間が目の前に居るのに。
「ワシは公爵の………」
知るか!
水が一気に凍り付くイメージを高め、一番偉そうな奴を拘束しているウォーターボールを凍らせてやる。
一瞬で凍り付かせるのだ。勢い余って拘束している相手ごと凍らせても仕方無い。
開き直って相手まで凍らせる。イメージ以上によく凍ったもんだ。この凍り具合からして心臓まで凍ったかも知れない。
これで他の奴も沈黙するだろう。
「エイジ、それがトルーマン公爵です!」
え? しまった!
事情聴取を一番したかったトルーマン公爵の全身を凍らせてしまった!
まだ生きていれば良いけれど。




