ワンちゃんは ボール遊びが 好きだよね
子供の頃、家の近所に矢鱈と吠える大型犬がいた。噛まれた事は無かったが柵の外を通ろうものなら駆け寄って来ては親の仇の様に吠えまくられた。
まだ小さかった頃には恐怖でしかなく、友人の家で飼われていた小型犬と本当に同じ犬なのか疑問だった。
お陰でその犬がきっかけとなり、今の今まで犬は好きになれなかった。
ケルベロス。頭が3つ有る獰猛な犬。出来る事ならばパスしたい!
「大将、そいつに近付くと噛み付いて来るぞ!」
それじゃ距離を取るか。
「離れると口から焼き付く様なブレスを出します!」
ブレスは魔法じゃないから魔力を無効化する剣、カムストックは使えないか。
ラーイにシルヴァ、アドバイスはありがたいがいっその事、お前ら夫婦の初めての共同作業って事で貰える事になったカムストックでこのケルベロスに入刀してもらいたいんだが!
「ウゥゥ」
ケルベロスの奴、俺に唸り出しやがった。どうやら敵だと認定されたらしい。
取り敢えずあの3つの頭で噛み付いて来られたら厄介だ。ブレスには警戒しつつ距離を取ろう。
「ブレスが来ます!」
次の瞬間、シルヴァの予告通りにブレスが来た。だがこのブレスだって文字通り、息が切れたら終わりの筈だ。その瞬間を狙わせてもらう!
それまでは結界を張ってやり過ごすしかない!
だがケルベロスは俺の予想よりも頭が良かった様だ。
3つの頭で交代してブレスを吐きやがった! 見た訳でほないが長篠の戦いでの織田軍の鉄砲三段撃ちの様だ!
これじゃ反撃する隙が無い!
「エイジ、気を付けて下さい。近付いていますよ!」
リックよ、言われなくても見りゃ判る。やっぱりブレスよりも接近戦で噛み付く方が得意なんだろうが?
さてどうする?
ケルベロスはブレスを休まずに吐きながら近付いて来て、あの3つの頭で仕留めるつもりなんだろう。
尤も俺の結界はそう簡単には破れないだろうが。
そうだ! 結界だ!
「大将!手伝うぜ!」
ラーイとシルヴァは決着が付かないまま俺の配下になったんだったな。カムストック欲しさに。
となると真の意味で俺の手下にするには、申し出はありがたいがここは圧倒的な実力を見せ付ける必要が有るな。
「手出し無用!」
言った手前、苦戦する事も許されなくなった。
今回のバトルプランは、自分の張った結界をどれだけ信じるかだ。
「エイジ何をするつもりですか!」
リックが心配するのも無理はない。俺はしゃがみ込むと膝を抱えて身体をコンパクトにまとめた。同時に結界も小さく球体にしてみた。
これは友人の飼っていた犬、ビークルのコロがボール遊びが大好きだった事を思い出して立てた作戦だ。
あまり良い気分ではないが、結界に守られた状態でケルベロスに玩ばれる必要が有る。
そしてあの大きな口に咥えられたらそれが合図だ。一気に結界を拡げる!
つまり咥えた俺の結界が口の中で大きくなっていく訳だ。
ケルベロスめ、顎が外れてみっともなく開きっぱなしの口に魔法を打ち込んで身体の中から燃やしてやる!
「グルルゥゥ」
ケルベロスはブレスを止めて、3つの口からそれぞれ不気味な唸り声を上げながら小走りして来た。
狙い通り! 古今東西、犬なんてボール遊びが大好きと相場が決まっている!
「あれ?」
しかし想定内なのは此処まで。
ケルベロスは前足で少し小突いた後に蹴って走って、蹴って走ってを繰り返しでサッカーのドリブルを楽しむ様になってしまった。俺で!
これじゃ勝ったとしても無様以外、何物でもない!
口を拡げて豪快にぶっ放す筈だったのに。
「大将!」
ケルベロスの前足でいじられている状態になった所でケルベロスの注意が一瞬だがデカい声を出したラーイに向いた。
「ウォータージェット!」
首は3つでも胴体は1つ!
そう言う訳で結界を解くと同時に高圧の水の刃で胴体を切断した!
それと同時に切断面を氷結させる事で、宝物庫がケルベロスの血で汚れるのを最小限にした。
こうなると流石のケルベロスも動かなくなった。




