明かされた リックとディックの 正体が
王弟スティーブ、文字通り国王の弟。
コイツが国王に剣を突き刺した張本人らしい。
「そんな、兄上がそんな事を」
あのリックがこれ以上は見るに耐えない位に狼狽しているが、俺も驚いている。
まずは落ち着いてここまでの事を整理しよう。
伯爵軍が王宮を占拠する中、国王が刺された。刺した犯人は漆黒の鎧を身に着けていたそうだが、国王によると王弟らしい。
そしてリックは国王も王弟の事も兄上と呼ぶ。
と言う事は。
「リック、さっきから国王陛下と王弟を兄上と呼んでいるが、その辺の事情を教えてくれ」
言いたくなさそうなら聞かない。
これが俺とリックの間の無言のルールだった。初めてこの異世界に転移した夜からずっと。
俺だってこの異世界に来る前までは、ブラックなリフォーム会社でパワハラを受けていた卯建の上がらない男だった。
それがどうだ。この世界に来たら魔法が使えた。だから外国から来た魔道士なんて言ってみた。
幸いにも同じ日本から先に転移した椎名さんが伝説的な活躍をしてくれていただけでなく、魔導書を日本語で書いてくれていたお陰で俺の株は上がる一方だった。
今更、本当の自分の事なんて言いたい訳が無い。
リックの事は何か有ると思ってはいたが、彼が正体を明かす時は道義的に俺も正体を明かす時だと思っていたから聞くに聞けなかったが、そうも言ってられない事態になってきた様だ。
仕方無しにリックの正体を聞いてみたが、聞き辛いったらありゃしない。
「それは僕からお話します」
後ろから聞き覚えの有る声がした。
「ディック!」
「エイジ、ようやく到着したよ!」
「ミラ! 来てくれたのか!」
公爵軍に蹂躙されたレイス子爵領の領民を癒やす為に残ったミラとディックが王都に到着した!
不便でもワイバーンを1頭、ミラ達を運ぶ為に派遣してよかった。
「もうお気付きかも知れませんが、僕が本物のリック・レイスです」
えっ?ごめん。それは気付いてなかった。
ディックが本物のリック?
「いや、僕が話そう」
リックは手で制して俺に向き直る。
「本名は、リチャード・マークス・フォン・ディラーク。相性がリックで、先代国王の3男です」
「3男ってレイス子爵家じゃなかったんだな?」
「レイス子爵家は母の実家です。母は侍女として王宮に仕えましたが、当時の王太子であった父に見初められて僕が生まれました。ただ僕の出生は秘密にされていたのでレイス家に同年代の男子が生まれた時に偶然、同じリチャードと名付けられました」
「それじゃリックは王子様?」
「一応はそうなります。申し訳ありません。エイジを騙す形になってしまいました」
隠されていたのは事実だけど、ムカついたりはしないな。
「どこから話せば良いのか」
遂にリックの真実を聞けるのか。と思いきや、横槍が入る。
「あの、それよりも先に王宮を占拠している伯爵軍を排除した方が良いと思うのですが」
「それもそうだな。でも、事が落ち着く迄は紛らわしいからお前はディックだ!」
呼び方なんて緊急時に変えられるか!
「えっ?僕が本物のリック・レイスだと判ったのに?」
「気にするな。こっちだって相性はリックだ!」
ディックには悪いが、今更リチャード殿下なんて呼べるか!
「それじゃ行こうぜリック!」
「はい!」
「ミラは怪我人の治癒、ラーイとシルヴァは俺に付いて来い。ディックは適当に何かやれ!」
それぞれの役割分担は終わった。何かをアピールしているディックを置いて、俺達は走り出した。




