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脳筋の 意外と使える その頭

 見た目からしてこの国、ディラーク王国の国王と思われる男が横たわっている。

 その胸には禍々しい気を放つ剣が突き刺さったままだ。見ただけでも痛々しい。

 

「陛下!」


 やはり国王か。悲壮な叫びを上げながら駆け寄るリックの姿が忍びない。


「オッ…ウゥ…」


 まだ息は有る!

 微妙に急所を外していたのか、それとも国王の執念なのか、何れにしても即死は免れた様だ。これなら助かる!


「すぐにお助け致します!」


「リ……」


 息も絶え絶えな国王がリックの名前を呼ぼうとしている。国王直々に名前を覚えられるって、リックって実は王宮魔術師でも偉い人だったのか?

 この期に及んで暢気にそんな事を思っていた俺を他所に、リックは無駄の無い動きで国王にサッと駆け寄ると剣を抜きに掛かる。


「ウァァ!」


 しかし突然、剣を抜こうとしたリックが叫び出した!


「どうしたリック?」


「この剣の柄を握った瞬間、身体中に何とも悍ましい衝撃が!」


 どうやらこの剣自体が放つ禍々しい気が抜く事を許さない様だ。俺も使うから判るがこの気配は闇魔法?

 それでもリックは何度も柄に手を延ばしてはいるが、その度に弾かれる


「リック、光属性の魔法で浄化して抜くんだ!」


「さっきからやっていますが効果ありません!」


 リックの光魔法が効かない? そんなバカな!

 どれだけ強力な闇魔法なんだ?

 光属性の魔力だけならリックより強いと思われるミラなら何とかなったかも知れない。だが生憎とミラは王都に向かっている筈だが、まだここには居ない。

 ミラを置いて来た事を激しく後悔した。


「………ぅい…い」


 国王が何かを言っているが上手く聞き取れない。「もういい」と言っている気がする。諦めたら終わりなのに。


「…………リ………王国を」


「陛下、何を、何を仰ります!」

 

 剣を抜かない事には治癒魔法を使えない。しかしその剣に触る事すら出来ない。

 俺達は無力感に打ちのめされた。出来る事と言えば、俺は立ち尽くすだけ、リックは涙ながらに国王の手を握る事だけだ。


「王家を……」

 

「嫌です。まだ諦めてはいけません陛下!」


「リチャー………後を…た…の………む」


「あっ、兄上!」


 リックは涙ながらに国王を兄と呼んだ。その瞬間、俺は色々と察した。

 国王を兄と呼び、子爵家の3男で王宮魔術師を自称するこのリックの事情を。



「あの、お取り込み中すみません」


 恐る恐るシルヴァが声がけ掛けて来た。こういう時は空気読んでくれよ!


「ラーイが何かを思い付いた様です。聞いて頂けないでしょうか?」


「後じゃダメなのか?」


「その剣を抜く方法についての事だそうです」


 それを早く言え!


「なぁ大将、その剣から出てる魔力なんだけど、さっきの剣で消せないかな?」


「ん?」


「あの魔力を無効化する剣です」


 剣が多くて紛らわしいが、魔力を無効化する剣の事だとシルヴァほ言う。


「魔力が無効化されたからって、あの剣を構えた俺の前で初めてまともに触れ合ったお前らが、そのままの勢いでキスまでしちまったって言うあの剣か!」


 確かにあれならあの禍々しい闇魔法を無効化させる事が出来るかも知れない!

 脳筋だと思っていたのに案外使えるな、ラーイ!


「試して視る価値は有るな、リック!」


「はい!」


 早速俺が剣を構える。それと同時にリックが再度、国王に刺さっている剣に手を延ばしてみる。


「今度は何ともありません!」

 

「それじゃラーイ、抜け! 抜くと同時に治癒魔法だ!」


「ええ!」

 

「任せてくれ!」


 リックから何時になく威勢のいい返事が返ってきた。相当テンションが上がっているな。

 ラーイも気合い充分だ!


「せーのっ!」


 案の定、抜いた瞬間に国王の傷口から血がこれでもかと言わんばかりに吹き出してきた!

 だがその血を全く気にする事なくリックは傷口に手を当て、治癒魔法を行使する。

 いつも何に対してもクールで何処か余裕ぶっこいている様に見えるリックが、血を浴びながらこんなに真剣な眼をするなんて初めてだと思う。


「もう大丈夫だ」


 そう言って国王はヨロヨロと自身の力だけで立ち上がろうとするが、流石にまだよろけてしまいリックの肩に手を掛けて何とか立ち上がった。


「良かった。兄上」


「心配掛けたな」


 まだまだ若いのに威厳を感じさせる国王が優しく微笑み、涙に頬を濡らすリックを抱き寄せた。

 もう少しの間だけ見守っていよう。この、複雑な家庭環境の兄弟を。

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