やりやすい さっきの敵は 今や部下
原理は解明されていないが、前に苦労させられた魔力を無効化する剣の前ではシルヴァとラーイが普通に抱き合う事が出来た。
喜ぶ2人に冷水を浴びせる様で申し訳無いけど、最初に言っておかないと。
「あのさ、この剣なんだけど国宝でな。生憎だがお前達に渡す訳にはいかない」
「そんな!」
「そこを何とか、頼む!」
当たり前だが2人共真剣な表情だ。ここでお預けって、我ながら酷いとは思うけど仕方ないんだよね。
「待ちなさい」
ここでリックが割って入った。何か考えが有るのか?
「この剣が魔力を無効化する仕組みは王宮魔術師団で解析中で、現在は最終段階だ」
えっ、そんな話は初めて聞いたが。
「お前達の活躍如何では、その解析結果を基に作る複製品をやろう。勿論、魔力を無効化する能力は変わらず有する!」
「本当か?」
「お前達2人がエイジの配下となって、それ相応の働きを見せた時にはくれてやろう!」
確か先日はこの剣の仕組みは解明出来ていないと言っていた筈だ。
さてはリック、策士だな。今はこのリックのアドリブに乗るしかなさそうだ。後でバレたら厄介だけど。
「俺はまともに教育なんて受けて無いから畏まった挨拶はできねえ。だからこんな時に何て言っていいのか判らねえけど、紅炎のラーイ、アンタに従うぜ!」
「氷雪の妖女シルヴァ、貴方様に従います。何なりと御命令下さい」
これで取り敢えずこの2人が配下になった訳か。
「先ずはこの王宮の伯爵軍の配置を教えてくれ。あとその前にシルヴァはこの回廊の氷を解除しろ」
「御意!」
シルヴァが何か唱えるとか、構えるとかをしなくても自らの魔力による氷を睨み付けただけで冗談の様に氷が無くなっていった!
氷に関しては、負けたかも知れない。マジで!
「なぁ大将!」
居酒屋の親父みたいに呼ばれたが、これがラーイなりの敬意を持った呼び方なのだろう。
「俺達はそんな軍の配置までは判らねえ。好き勝手に暴れて、近衛兵と王宮魔術師、それに大将が来たら相手をしろって言われていたんだ」
「と言う事は彼等は陽動の可能性がありますね。急がなければ手遅れになりかねません!」
「判った。でもあと1つ。伯爵軍の強い魔術師、火と水はお前らなんだろうけど風と土も同じ様な奴なのか?」
「いや大将、こんな特異体質は俺とシルヴァだけだ。土と風の魔術師は普通よりちょっと上なだけだ。中の上か、上の下くらいの魔術師だな。俺達の敵じゃねぇ!」
「残りの魔術師や兵隊の配置は解りませんが、矢鱈と強い魔物を操るテイマーが3人おります。彼等は伯爵の息子に、影の様にベッタリです」
なるほどな。それなら後は進むだけだな!
「それじゃ行こうリック! ラーイ、シルヴァ、お前らも来い!」
俺達はリックの案内で先を急ぐ。
走りながら改めて考える。何故、公爵を待たずに伯爵軍だけで王都に入り王宮を占拠したのか。
それに3人の強力なテイマーって気になるな。影の様にベッタリか。何故テイマーだけ側に居るんだろ?
「この先すぐです!」
途中、何人かの兵士や魔術師が足止めに来たが、シルヴァとラーイが一睨みしただけである者はは凍り付き、またある者は燃え上がったりしていた。
そしてそれ以降は伯爵軍の襲撃は無いまま進む事が出来た。
「あそこか!」
「このまま玉座の間に入りましょう!」
非常事態だ、俺達4人は礼儀も何も関係なく国王の居る玉座の間に飛び込んだ!
しかし、次の瞬間に望まぬ光景を目の当たりにする!
「あっ、ああぁ」
リックが言葉を失ってしまった。
俺達の目に飛び込んで来たのは、剣を胸に刺されて横たわっている国王と思われる男の姿だった!




