あの剣が ちょっと工夫で 役に立つ
「話に聞いていた、偉大なる伝説の大魔道士シーナの再来の魔道士はアンタだな?」
ラーイはツカツカと俺の前にやって来た。
「頼む、俺達を何とかしてくれ!」
ガバっと頭を下げられて懇願されてもだよ、出来る事ならやってやりたいけど無理な事は無理だ。
「確認しておくけど、お前も生まれながらに精霊の影響を受けたのか?」
「何故判った?」
そりゃ、見れば判るだろ!
「シルヴァから聞いたのか?」
「ああ。シルヴァは氷の精霊だがお前は炎の精霊で間違いないな?」
「何故判った?」
自分で、「紅炎のラーイ」なんて名乗っているくせに!
悪い奴には見えないけど、驚いた表情で聞き返して来るんだからこのラーイは素で馬鹿なのかな?
「なぁ、俺達は先を急ぐんだ。ここは停戦して、後ほどの対応って事じゃダメか?」
「エリクソン伯爵にも、後でお前らの希望を叶えてやるなんて言われたが一向にその兆しが無い!」
「アンタに言うのはお門違いだろうけど、私たちも我慢の限界なの!」
俺だって木の俣から生まれた訳ではない。愛する男女は何とかしてやりたいとも思う。
しかしまぁ相反する強力で無尽蔵な2人の魔力、これをどうする?
と、考え込んでいる俺にリックが2人には聞こえない様に囁いてくる。
「お取り込み中すみませんがエイジ、何時までもこの2人に時間を取られる訳には」
「判っている。しかしこの2人、それなりに実力が有る。敵にしたらそれこそ時間を取られるし、周囲の被害も甚大になるぞ」
少し考えて、俺の答えにリックは渋々納得したようだった。
それにしてもシルヴァとラーイの言葉に何か違和感が有る。
「そもそもエリクソン伯爵は何と言ってお前達を味方に付けたんだ?」
「相手はあの、偉大なる伝説の大魔道士シーナの再来と呼ばれている魔道士だ。戦って勝てば言う事を聞くだろう。シーナの再来ならば、お前らの体質も何とか出来る筈だ。って伯爵には言われたんだ!」
あのインチキ親父、敵頼みかよ!
「私も同じ言葉で伯爵に誘われたの。でも伯爵には感謝もしているわ。だって同じ境遇のラーイに巡り逢えたのは運命に違いないわ。だからお願い!」
「頼む!」
2人揃って真剣な表情だな。
「戦って従わせるんじゃなかったのか?」
「アンタは強いのは判っている。まともに戦えばお互いに無事じゃないだろう。それじゃ戦わないで済む方法が無いかと思ったんだ。それに俺がシルヴァに駆け寄った時に攻撃しなかった。だから信じられると思った」
ラーイの奴、意外と賢かった!
信じてくれたのはありがたいが、俺に体質改善の相談に乗るのは無理だぞ!
「エイジ、あの剣を使ってみては?」
「あれか!」
リックの提案したあの剣とは、魔力を無効化する魔道士キラーの剣だ。
試してみる価値は大いに有りそうだけど、どうかな。
「いいか、この剣を構える俺の傍で、まずはそっと手を触れてみろ!」
俺が剣を構えて、俺の左からラーイ、右からシルヴァが恐る恐る近付いて来る。
そしておっかなびっくり手を触れてみる。
「冷たくない!」
「熱くない!」
狙い通りにこの剣は精霊の魔力をも無効化出来る様だ!
「ラーイが熱くないわ!」
「シルヴァだって全然冷たくないぞ!」
2人は愛おしさ全開でそれぞれお互いの頰をさすっている。
この瞬間を待ち望んでいたんだろうな。
「ラーイ、愛してる」
「シルヴァ」
おいおい、熱い抱擁からのキス!
剣を構えている俺の目の前でキスって、どういう光景だよ!
「おーい」
ダメだ。俺の声は届かない様だ。
2人はますます熱く燃え上がっている。それは結構なんだけど、この剣は国宝レベルの貴重品の筈だ。
くれてやれる代物ではない。この2人がこのまま一線を越えて結ばれる時も、こうして剣を構えて見守っていないとダメなんだろうか?




