二つ名の 有る魔術師と 戦うか
華やかな筈の王宮の回廊が白く分厚い氷で覆われている。
「これは水属性の魔術師で間違いないよな?」
「ええ。間違いは無いと思います。恐らくはアルフレッドの言っていた腕の立つ魔術師でしょう」
確かそれなりにやる魔術師が複数人いて、テイマーまでいるって話だったよな。
「なぁリック確認なんだが、ここを通らないと王様の所には行けないんだよな?」
「ええ」
「それじゃ、やるしか無いか」
氷には炎と相場が決まっている!
凍り付いた回廊は全体的に暗く、奥までは見えないので様子が判らないが、取り敢えずファイヤーボールを出してみる。
だが静かだ。反応が無い。
それでも遠くの方で消えたのは判った。氷には当たったらしいが、そこでそのまま力尽きたらしい。
俺のファイヤーボールで壁の氷を溶かせなかった?
「それなら、これならどうだ!」
今度は火炎放射器をイメージして炎を四方八方に撒き散らす!
本来ならば屋内で使用して良い魔法ではないが、周囲は氷で覆われている。だから盛大に燃やしてみよう!
「なに!」
白く分厚い氷は、火炎放射でも表面こそ多少は溶けるものの、全体的には大して溶けない!
「危ない!」
それでも氷を溶かすべく炎を見つめていた俺の前のに突然、リックが叫びながら飛び込むと同時に結界を展開した!
ガシャ!カチャコチャ、カラーン!
色んな音がしたが、どうやらリックの張った結界が幾多もの氷の塊から守ってくれた様だった!
どうやら炎を凝視していた隙を突かれた様だ。油断禁物だな!
「リック、助かったよ!」
「それはよかった。でも喜ぶのはあの魔術師を倒してからにしましょう」
「あの魔術師?」
結界が氷を防いでいる僅かな間に炎は綺麗サッパリ消されており、そこには白く長い髪と白い衣。と言った具合に全身白い魔術師が1人で立っている。
ぱっと見、雪女とか雪の精霊を思わせる。いや、氷の魔女と言った所か。
「女?」
「お前が話に聞いていた魔術師だね」
この声はやはり女か。
「お前が本当に偉大なる伝説の大魔道士、シーナの再来ならば私の氷を何とか出来る筈だよね」
魔術師の女はそう言うと両手を俺に向けて突き出した。
「行け」
そう呟く様に言うと左手からはこぶし大の鋭く尖った大量の氷が連射され、右手は直径が1メートル以上あると思われる大きさの氷を作って放つ。
小さい氷は身体に当たれば貫かれると思う程の勢いだし、大きい氷が当たればその衝撃で大怪我は間違いないだろうな。
しかしどうやら相手を直接、凍らせる事はしない様だ。
「リック、結界を強化してくれ!」
「どうするつもりですか?」
「こうするんだよ!」
あんな量の氷を相手にするには爆発で吹き飛ばすのが1番だ!
特にあの大きな氷は結構な火力でも俺達の所に到達するまで完全には溶けなさそうだし。
そう言う訳で爆発を起こす!
幸いにも上下左右全ての面が分厚い氷に覆われている。多少の爆発なら大丈夫に違いないし、爆風はリックの結界で防げる!
ついでに連発させてあの魔術師も吹っ飛ばしてやる!
その時にもあんなクール振っていられるのか見物だ。
ドッドドッコォーン!
王宮の回廊に爆発音が鳴り響く!
本来ならば床や天井、壁をも吹き飛ばす爆発の筈なのだ。正直言うとそれならそれでも良いかなと思っていたけど、分厚い氷のおかげでそれは防がれた。
まぁ爆発に近い所では流石に氷が無くなってはいた。溶けたというよりも砕けたって感じだが、建物は無事だ。
そんな風に一安心した所で連発した爆発が氷の魔女の様な魔術師を飲み込む!
面倒くさいから、氷の魔女でいいや!
「やったが?」
あの氷の魔女は避けもせず爆発に飲み込まれた。
「氷は中々だったが、口ほどにもない」
「エイジ、まだです!」
爆煙が収まってきた。
すると彼女が居た所に白いカプセルの様な物が現れていた。
プシュー! と音を立ててそれが開くと気怠そうに彼女が出て来た。
かと思いきや、今度は口元を緩めた。
「やるねぇ。氷雪の妖女シルヴァ、本気で行かせてもらうよ!」
氷雪の妖女なんて二つ名が有ったのか!
「せいぜい頑張って私の身も心も溶かしておくれ」
うーん、顔立ちもそれなりに整っていると思うし、今の台詞だって目一杯の艶っぽさで言ったんだろう。
でもこの状況だと不気味にしか感じないな。
しかしまぁ、ご要望通り溶かしてやる!
誤字脱字のご指摘、ありがとうございました。




