無いのなら 言ったもん勝ち 遺言状
「エリクソン伯爵家嫡男、アルフレッド・エリクソンである!」
アベニールを囲んでいた伯爵軍別働隊にセクシー映像を見せた時と同様に、水のスクリーンを作り出してそこにアルフレッドのスピーチを映し出す。
更には、映像が見えなくても王都中にアルフレッドの声が響き渡る様にイメージして魔法を仕掛ける。
これはもはや何属性なのかは判らないが、属性関係なくイメージだけで魔法を使える俺だから出来る魔法だな。イメージは大事だからな。
王都中で悪事を働く伯爵軍兵士をおびき出す為にはこれしか無いと思う。
「我が伯爵軍魔術師の魔法を使い、皆に知らせる事が有る」
実はアルフレッドがこちら側の人間になったと知っている奴はこの中には居ない筈だ。
「皆には残念な知らせをしなければならない。我が伯爵家に反旗を翻したアベニールを攻略していた我が父は、敵魔道士の卑劣極まりない策略により名誉の戦死を遂げた!」
チラホラと民家のドアを開けて様子を伺いに出て来る者も居る。効果はゼロではない様だ。
「このアルフレッドも兵士を集めて援軍として参ったが、魔道士の前に別働隊は持ち堪えられずに間に合わなかった」
ここでアルフレッドは目を閉じて俯く。笑わない様にしなければならないからな。
それにしても、彼もまあ良くやってくれる。
話は十数分前に戻る。
「リック、王都を荒らしている連中が伯爵軍なら、その数は1万人位か?」
「確かそれ位かと。公爵軍を待てなかったのは、それだけ統制が取れていない証かも知れません」
「彼奴らは伯爵が死んだ事を知らない筈だよな?」
「ええ。まだその知らせは王都には届いていません」
「なら、伯爵軍に影響が有りそうな人にスピーチしてもらおう!」
魔力が増えた魔法剣を構えると、今日の朝まで居た所の近くに置いてきたゴーレムに魔力を送る。
こうして魔力を送ってやるとゴーレムは俺の耳目として機能し、俺の言葉を伝えて思いのままに動く。
今までは同じ街でしかやった事は無くて、正直こんな遠くて出来るのか不安も有る。
しかし今はエセドワーフ達が俺の魔力増幅の為に作ったこの魔法剣を信じるしか無い!
ゴーレムを通じて何か見えるか?
何かが見える!成功だ!
うーん見えたのは普通に部屋の中だな。何処だ?
そうか、ここは代官所の応接室だ!
どうやら放置したままのプチゴーレムに繋がった様だ。となればアルフレッドを探すのみ!
「アルさん!」
「エイッさん?」
突然のプチゴーレムの訪問に最初こそ驚いてたアルフレッドであったが、すぐに俺の魔力で動くゴーレムだと理解してくれた。
「アルさん、実は…」
事の次第をアルフレッドに説明すると案の定、アルフレッドの表情は渋くなる。
「なるほど、それで伯爵家の長男として兵達に訴えろと?」
「いや、長男ではなく嫡男だ。アルさんは掻き集めた兵達を連れてアベニールに援軍に駆け付けたが、残念ながら魔道士の策略の前に伯爵を助けるには至らなかった。しかし死に目には間に合い、今際の際にアルさんを嫡男として伯爵家を継ぐ遺言状を残したんだ」
「遺言状の捏造?」
「嘘も方便!」
この際、伯爵の死だろうが使える物は何でも使うしかない!
「金や身分を与えるとかでも良いし、怒りを煽ったりして全ての兵が俺を目掛けて来る様に仕向けて欲しいんだ!」
「怒り?」
「兵達は徴兵されたんだろう?なら俺がエリクソン伯爵領内の村を幾つか焼いたとでも言ってくれ」
「そんな事を言って大丈夫なのか?」
「多少の脚色は必要だよ」
重要なのは兵達が俺の元へ全員集合する事だ。理由はどうでも構わない。
「判った。嘘はどうかと思うがやってみよう」
それからアルフレッドの演説が始まった。
「父は、この無念を晴らせとこの手を始めとして取って息を引き取った」
言っちゃ悪いが、伯爵の仇討ちに燃える奴は居なさそうだ。
「領内の村々が魔道士の手に掛かった!この暴挙を許せるのか!」
ここでイメージ映像として、俺が前に爆破した盗賊のアジトの村の映像に切り替える。
「魔道士の討伐に参加するだけで褒美を与える!今こそ皆の力を結集させる時だ、それが叶えば必ずや勝てる!立ち上がれ、そして魔道士を討て!決して許すな、八つ裂きにして父の墓前に捧げよ!」
アルフレッドも最後はヒートアップしてきたな。




