戦いの 記憶はきっと セピア色
渦に巻き込んだ事で戦闘モードになったのかクラーケンの動きが変わった!
さっきは俺の事を獲物として捕らえようとしていたが、今度は明らかに敵として認識している様に感じる。
その証拠に暗い海にその身を消したがまだ殺気を感じる。これから本気で襲い掛かるつもりに違いない。
となると海中生物と海の中で戦うのは得策ではないな。
さっき放った光の球が幾らか海中に有るとは言え夜の海はまだまだ暗い。
この暗い海に我が物顔で居るクラーケンは光なんかなくても周囲の様子が判るのだろうが、俺は人間だ。
海中生物ではないのだから光無しではとてもじゃないが戦えない。
だから海中の照明と探索を兼ねて光の球を全方位に展開した。
この光の球は単に照らすだけでなくクラーケンに纏わり付く機能をイメージした。
クラーケンが触れば激しく光って、そのまま付着して離れない。夜空を飛ぶ飛行機が衝突回避の為に機体のランプを点滅させている様に、これでクラーケンにも暗い海中で目立ってもらおう!
さて、肝心のクラーケンは何処だ?
見付からないと変な緊張感を感じる。映画だと後ろにそっと足が伸びていて気が付いた時には手遅れってパターンだがそんなドジは踏まない為の光の球だ。クラーケンに触れば一際輝く仕組みだから気が付かない事は無い。
でも念の為に光の球を追加して今度は少し遠くまで展開してみると、案の定少し遠くで光った!
折角の手掛かりだ、あの光を目掛けて光の球を連射する!
狙い通りクラーケンに満遍なく光の球が付いた!
これはこれで綺麗な物だな。ボイルされて酢味噌で食べる時しか見た事無いけど、ホタルイカってこんな感じなのかな?
魔法の効果で光るクラーケンは俺と距離を取って隙を伺っている様で俺の周りを旋回している。
襲い掛かるタイミングを計っている様だがその前に再び渦を作って様子をみよう。
「渦潮!」
海中の敵に対する方法はこれしか思い付かないから仕方ない。
光ったクラーケンが海中でクルクルと回り出した!
正直言うとクラーケンだろうと、暗い中の光って綺麗だな!
だが何時までも自分の魔法で光って回る、巨大イカの化け物に見とれてばかりもいられない!
1つ目の渦巻きを抜けたクラーケンにすぐに次の渦巻きをお見舞いする。
2つ目を抜け出したら3つ目、すぐに次の渦巻き、また次と繰り出した。
グルグル回しているだけなので致命傷にはならないが、動きは確実に鈍くなっている。
更に言えば、回しながら少しずつだが上に移動させている。海面上に出してしまえばこっちの物だ!
その内に渦を出す事に慣れた俺は、クラーケンを捕らえている渦に周りから違う渦をぶつける。
こうする事でクラーケンの足が少しでも渦も外に出た瞬間に、他の渦がそれをさらって行く。
複数の渦に足を取られたクラーケンはその身を引き裂かれそうになっているが、流石にそうなる事は無い。
しかしこうして見ているとまるで渦同士がクラーケンを奪い合っているかの様で面白い。
そうこうしている内に海面までもう少し。
海に引き込まれる前にイカ漁をイメージして宙に浮かべておいた光の球が見えてきた。
ここからが仕上げだ!
俺を包む泡を海面近くまで上昇させながらクラーケンを見てみると、まだ抗おうとしている。
最後まで油断禁物だな。
先に俺が海面に出ると、足から高圧の水を出して海の上に立つ。
この高圧の水を使おう!
既に海面まで上がっているクラーケン目掛けて下から高圧の水を喰らわせる。この高圧の水でクラーケンを海面上に飛び出させると、後は複数の高圧の水が柱なってクラーケンを持ち上げる。
まるでクラーケンが水柱に胴上げでもされているかの様だ!
後は仕上げだ!
「中々の強敵だった。これからイカを食べる時にはお前を思い出すだろう」
一応の敬意を払う。
次の瞬間、スーパーで売っているカチンコチンの冷凍イカをイメージして、氷結魔法を使う。
焼こうかとも思ったけどまだクラーケンは体表に水分が多くて焼くには手間取りそうだ。
冷凍にした方が手っ取り早いし、その後の使い勝手も良さそう!
「お見事!」
「流石ですね。エイジは公式に、史上初めてクラーケンを倒した魔道士と言う事になります!」
それは栄誉だな。初って言うのが気持ちいいや!
「おい」
「エイジ様」
「旦那様!」
騒ぎを聞き付けたのだろう、この街に置いて行った3人が駆け付けた様だ。
新しい港の設計に来たエセドワーフのトニー、その娘でエルフっぽい顔立ちのエリス、この領都の花街から俺が身請けしたローラ。その妹分のアリとリサまで居た。
「みんな来たのか?」
「話は後じゃ。早く魔石を取り出さぬか!」
そうだった。魔石は魔力の源。仕留めたら早く取り出さないと魔物が生命維持にその魔力を使うから無くなってしまう!
「ウォータージェット!」
今のクラーケンはカチンコチンなので刃物は受け付けないが、この高圧の水の刃なら話は別だ。
気が付けばクラーケンの解体ショーになっていたが捌くのに丁度よかったのかも知れない。
しばらく探すと、あった!
クラーケンの巨体に相応しい大きな魔石を取り出してみせた。
「わぁ、黒くて大きいですね!」
誤解されそうな事をローラがにこやかに口走ったが、クラーケンの魔石はイカ墨由来なのか、セピア色をしていた。
クラーケンとの戦いの記憶も時が経てばセピア色になるのかな?




