海中で 勝ってこその 価値がある
海上を滑る様にクラーケンが出没したと言うポイントまで行ってみる。
そこで光魔法を使い光の球を作り出してみた。
普通の静かで暗い海だ。
何だかここでこうして待って居てもボウズになる様な気がしてきた。
そもそもクラーケンは何の為に出て来たのだろうかと考えてみる。
普通に考えると縄張りに入ったとか、食材調達の為の狩りって所か。
しかしここは港のすぐ外側だ。縄張り云々言うなら毎日何隻もの船が行き交っている。今更思い出した様に出て来る事も無いだろう。
食材調達にしてもそうだ。
船を襲って人間を食べるのなら、もっと被害報告が有っても良い筈だ。船を襲う程の巨体ならば、さぞかし食べっぷりも良いと思う。
その割には被害報告は少ない。
となるとそれ以外の理由か?
まあいいや。今は理由を考えるより、どうやって誘い出すかだ。
光魔法で更に小さな光の球を作って海中に打ち込んでみる。暗い海中ではさぞかし目立つと思うが、それが狙いだ。
本物のイカ漁でもやっているらしいし、チョウチンアンコウだって光で獲物をおびき寄せるし、光る釣具も有る!
どの位の時間が経っただろう?
今日はもう出ないのかも知れない。
クラーケンだって用が済んだら出て来る義理も無いだろうし、釣ったイカを刺身と天ぷらにしてくれる生け簀料理店のイカみたいに簡単には釣れない様だ。
諦めて帰ろうとしたその瞬間だった!
「!」
なんだ?
何が起きたのか判らない!
海に引き込まれた?
すぐに判った。間違いなく引き込まれている!
咄嗟に俺の足に巻き付いているクラーケンの足に結構な強さの無属性魔力をぶつける!
機関銃の様に連射だ!
すぐに効果は現れた。クラーケンが離したのか、それとも千切れたのかは知らないが身体の自由は確保出来た!
それなら先ずは息だ。呼吸を確保しなければ!
風魔法を使ってみた。
何処から出たのか判らない空気は全て泡になって海面を目指して行ってしまった!
暗い海に引き込まれて混乱していたが、あっちが海面なんだな。それは判った。
そんな場合じぁない!
呼吸だ!
魔法で何とか水中で空気が留まらないか、イメージを膨らませる。
イメージとしては空気が俺を包む感じだ。あの巨大なシャボン玉の中に自分が入るイメージ。
「プハァ!」
上手くイメージ通りにいって良かった!
失敗していたら死んでたかも知れない!
魔法の力なのは間違い無いが、俺を包むこの泡は海面に向かって行かずに海中に留まっている。どうやら俺が念じた方向に進む様だ。
便利な物だ。オマケに泡のくせに丈夫の様だ。
さて、空気の有り難みを再認識した所で見失ったクラーケンを捜す。まだ遠くには行ってないと思いたい俺は、さっきの続きとばかりに小さな光の球を海中に放ち移動させてみた。完全に釣り感覚だ!
予想より早く現れてくれた!
光の球を追って巨大な何かが海中を進んでいる!
あれがクラーケンなのか?
こうして見ると、エサでも何でもない光の球を一心不乱に追い掛ける脳ミソの足りない生物にしか見えない。
だったら知恵で勝つ!
俺だって人間と端くれだろう。イカよりかは頭が良いと思いたい!
だから敢えて敵地である海中で勝ってみせる。何とかこうして海中に居るからこそ出来る退治方法を考えよう!
「渦潮!」
渦潮をイメージしてクラーケンに見舞ってみた。
渦に巻き込まれたクラーケンはジタバタと足を動かして抵抗した。
クラーケンにしてみれば気持ち良く狩りをしていた所で突然、渦に巻き込まれただから抵抗くらいするだろうな。
幾らかの抵抗の末にクラーケンは渦から脱出しやがった。当たり前か。
だが有効ではある事は判った。今度はこっちのターンだ!




