ここはどこ 貴女は天使 なのですか?
「ここはどこだ?」
「どこって、カールの家ですけど」
焦るにソフィは、『この人は何を言っているの?』と言いたげに首を傾げる。
「何がどうなっているんだ?」
「落ち着いて下さい。エイジ、助けてくれた事は感謝しますが貴方はいつの間に此処にいたのですか?この部屋には私とカールしかいなかった筈ですが」
「俺は確か池袋駅で痴漢冤罪で逃げて……、それで階段から転げ落ちたんだ!」
俺は時系列的に記憶を辿る。
「それで頭を打って、気が付いたらそこにいて、そいつに首を絞められて、頭に来たら…、こうなった」
確認する様に呟く。
全く分からない。
池袋駅で倒れて何故、此処にいるのか?
そもそも此処は何処なのか?
更には今気が付いたが、しこたま打った筈の頭が痛くない!
脳裏をよぎるは、死後の世界?
俺は思い切ってソフィに聞いてみる事にした。
「あの伺いたいのですが、ここは死後の世界で貴方は天使なのですか?それで、コイツは鬼なのでしょうか?」
「あの、何を言っているのか分かりませんけど、此処はソマキの村で死後の世界などではありませんし、このカールも無知で粗暴で醜悪ですけれど、一応は人間です」
天使の様に見える美女のソフィは瞬きを数回した後に俺の問いかけを否定した。
『まさか異世界とかないよな…』
「エイジ、大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。俺の事よりもソフィの事を聞かせてくれないか?」
分からない事を考えても仕方ない。それよりも現状を、そしてソフィの事を知りたい。
「彼はカール、村で一番の力持ちで、村の少し悪い少年達のリーダーです」
「何でこんな奴の所に?」
「村の為に戦って欲しかったからです!」
「どういう事?」
「盗賊が来ます。もう収穫時期ですが、収穫が終われば盗賊が来ます!」
「盗賊?」
「ええ、盗賊は作物を強奪します。村人を見たら男は殺し、女は乱暴し、子供はさらって行きます」
ソフィの言葉に力が入る。
「それじゃ」
思わずソフィをチラッと見る。その意図を汲んだのかソフィは顔の前で小さく手を振る。
「あっ、私たちは念の為、毎年安全な所に避難しています!」
すごいホッとした。ソフィが乱暴なんかされて無くて良かったと。
別の疑問が湧いてきた。
「それじゃ、村は取られ放題なのか?」
「いえ、いつもは予め適当な量の作物を渡せばそれで終わります」
割り切っているんだなと思った。
俺は咄嗟に、企業と反社会的勢力との付き合いに似ていると思った。と、なると、
「盗賊が出す作物を増やす様に求めた。しかし村は拒否した」
「何故分かるのですか?」
「何処も似たような物だよ」
暗い部屋の中、蝋燭の灯りに照らされたソフィの美しい顔は、似合わない程険しくなっていた。
「あまりにも無理な量で、出せる訳ありません。それでカール達にも村の為に戦って欲しかったから話し合いに来たのですが」
「交渉決裂か」
「ええ」
ソフィの表情が曇った様だが、顔を背けられると何分暗くてよく見えない。
二人は取り敢えず外に出た。月夜の為、外の方が明るい気がする。
俺は月明かりに照らされるソフィに改めて見とれる。
こんな美少女っているんだな。
俺は42歳という自分の年齢を意識しながらも、目の前の美少女に瞬間的に心を奪われた事を自覚した。彼女の事を知りたくなった。
「ソフィは何歳なの?」
「18歳です。エイジは?」
「40歳だよ。オッサンで驚いた?」
思わず2歳程サバを読んでしまった。細やかな抵抗だ。
「いえ、お父さんが生きていたら同じくらいかなと」
「お父さん亡くなったのか。ソフイって村長の娘だよね?それじゃあ村長って、ソフィのお母さんなの?」
「ソフィ!」
「そいつから離れろ!」
数人の男達が2人を囲んだ。彼らの平均年齢は俺よりも高いだろうが、皆それぞれ鍬などの農機具で武装している。
「待って、この人はカールから私を守ってくれたのよ!」
ソフィが間に割って入俺を庇った。
「余計に怪しい!」
俺は無性に腹立たしい。
「あんたら、こんな事が出来るなら何故ソフィ1人でカールの所に行かせた?俺がいなければ乱暴されていたかもしれないんだからな!」
「う、うるさい!」
「こんな時期に余所者なんて盗賊の一味が偵察に来たんだろう」
「捕まえろ!」
ソフィの手前、抵抗はしなかった。そして思った。
『これって、ざまぁフラグ?』