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娼館に 土足で不粋に 踏み込めず

 ゲイリーを捕らえて情報を引き出す為に娼館が立ち並ぶ花街に馬車を向ける。

 俺だけで行ってもゲイリーが何処に居るのかも判らないし、そもそもゲイリーの顔も判らない。

 そこでアルフレッドからゲイリーをこの花街に案内した役人を付けてもらった。


「ジョブです。よろしくお願いします!」


 職務に実直そうな、俺と同世代の男は何処かオドオドとしている気がする。

 別にゲイリーを花街に案内したのは悪い事じゃないんだがな。仕事なんだし。


「花街も例の件で少しは変わったのかい?」


「はい。代官自ら徹底的に娼婦の出所を調べ上げまして、多くの者が保護されました」


 胸を張ってジョブは答えた。


「そうか。彼女たちはどうしている?」


「取り敢えず自由にはなりましたが、何をするか戸惑っている様です。突然すぎて」


 まぁ、そうか。

 盗賊に家族を殺され、孤児院を出たら娼婦にさせられて今に至る訳だ。

 他の社会なんて知らないからな。

 下手したら自分の意思で娼婦に戻る者も出るかも知れないな。


「希望者だけですが、代官所の臨時職員に雇い入れる方向です」


「そうか!」


 アルフレッドは予想上回る事をしてくれる。

 いくら魔法でも過去を無かった事にする事は出来ない。少なくとも今の俺では。

 もしかしたら闇魔法とかで可能かも知れないが、椎名さんの魔導書には闇魔法については余り書いていなかった。

 もしかしたら椎名さんは闇魔法は洗脳とかに使えて危険なので、そういう魔法を開発したとしても書かなかった可能性もある。

 取り敢えず今の俺に出来る事は、彼女たちの行く末に幸多かれと願うしかなかった。



「こちらです」


 馬車が停まった所はこの花街で最も大きな娼館だ。この領都に来た初日に満室と言う事で俺が断られた所だ。

 そこで仕方なく空いている所を探したらローラに出会ったのだから、何が幸いするか判らないな。


「主人に取り次ぎを依頼します」


 ジョブは馬車を降りると素早く館に入り、程なくして出て来た。


「殿下は誰も通すなとの事で断られました」


 殿下? ああ、ゲイリーの事か!

 リックもディックも敬称略で見下す様に呼び捨てだったから俺もその気になったけど、一応は王族なんだよな。

 よく考えればゲイリーは王宮魔術師団の元名誉団長だったから、2人共かつての上司を呼び捨てか!

 どれだけ嫌われ者なんだよ!


「娼館としても殿下の意に従わざるを得ないと。そもそも令状が無ければ従えないとも申しておりました」


 確かにここは花街だ。

 花街はある程度の治外法権が認められていて、悪党ホイホイとしての側面も有るから娼館が一々捜査機関に客を引き渡していたら商売上がったりって言う事か。


「つまりゲイリーを引っ張り出す口実が必要だと言う訳だな?」


「はい。この娼館から連れ出すには令状かそれに代わる大義名分が必要です」


「大義名分?」


「つまり個人間の問題ですよ」


「個人的に何か有れば連れ出せる訳か?」


 ジョブは無言で頷くだけだった。本心では、余り言いたくなかったのかも知れない。

 基本的に役人って自分の担当で波風立てて欲しくはないだろうからね。


「具体的にはどんな事?」


「それはご自身でお考え下さい」


 さてどうした物か。別に容疑を裏付ける物的証拠が有る訳じゃないので、令状なんて間違っても出ない。

 それにゲイリーに個人的な恨みも無い。

 因縁をでっち上げて猿芝居を打つつもりも無いし、強引に踏み込む様な不粋な事はしたくない以上は、ここで八方塞がりとなってしまう。



「どいて下さい!」


 考えが纏まらないまま娼館の入り口付近に立っていた俺は、背後から不意に声を掛けられて振り向く。すると娼館から10代前半に見える少女が走って来た。

 どけと言う事は俺に用事が有る訳ではない様だ。


「すみません」


 少女はそう言い残すとそのまま走って行ってしまった。

 娼館の中に目をやると何だか慌ただしい。


「何か有ったのかな?」


「どうでしょう。聞いてきます」


 ジョブは入り口付近に居る職員に話し掛けると、次の瞬間に驚いている事が離れていても判った。


「大変な事になりました!」


「どうした?」


 血相を変えて小走りで戻って来たジョブにそう言われると、こっちの声も荒くなる。


「殿下がお倒れになった想です!」


「なに!」


 さっきの少女は医者を呼びに行ったに違いない。

 しかし、容態は判らないがまだ死んでいないのならこれで活路が開けた気がした。


「逆にゲイリーに接近するチャンスだ」


「如何されますか?」


「まぁ見ててくれ」


 急に妙な自信が湧いてきた俺は、医者の到着を待つ職員に申し出てみる事にした。


「大変な事になった様ですね。偶々ですが私は治癒魔法の使い手です。どうか殿下を診させて頂けないでしょうか? 困った時はお互い様です!」


「えっ、それでしたら是非お願いします!」


 娼館としても客、特に身分の有る者に死なれては困るだろう。あっさりと通された。

 さて、ようやくそのスケベ面を拝ませてもらうとしますか。

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