長男は 肩の荷扱い 父親を
アベニールから領都まで馬車なら数日間を要するのに、ワイバーンで飛べば数時間で到着するのだから空を飛べると言う事は大きい!
結局、アベニールでは帰宅は叶わずクロエの料理を食べた後は崩れ落ちる様に座ったまま寝ただけだった。
「さっさと帰って来てよね!」
去り際のクロエはいつも以上のキツい口調で、勘弁ならぬとでも言いたげな表情を見せる。
「判ったからそう、目を三角にして怒るな!」
本当に三角になっている!
そんなに怒らなくても良さそうな物だろうに。
「さっさとクレアの為に帰って来てよね! 私が伯母さんになる前に!」
おい、クロエは21歳だぞ。オバさんになるって何十年先の話だよ!
そうだよな。よくよく考えればクロエは21歳で、その妹であり俺の妻のクレアはまだ19歳なんだよな!
我が妻ながら思う。クレアは胸こそ無いが美人だと思うし性格も良い!
元の世界に居た頃の俺とは釣り合わない女だ。クロエの言う通り、もっと大事にしてやらないと罰が当たる。
そんなこんなで送り出されて数時間、領都が見えてきた。
「代官所の庭にでも着陸しましょう!」
リックに提案される迄も無くそのつもりだ。逆にそれ以外の選択肢は無い。
突然ワイバーンが着陸したらきっとアルフレッドの奴は驚くだろうな。
「おお!」
その予想通り、2匹のワイバーンが庭園に降り立った代官所は騒然としている。
「お戻りになられましたか!」
代官所の職員を引き連れてアルフレッドが小走りで建物から出て来た。
その表情は何となく嬉しそうに見えるが、俺はこの男に父親であるエリクソン伯爵の死を伝えなければならない。
「実は……」
アルフレッドはただ、ウンウンと頷くだけで特段の変化は無い様だ。
「そうですか」
とポツリと呟くだけかと思いきや、頷く速度がましている。
「父親って死ぬともっと悲しいのかと思いましたが、そんな事はありませんね。ご存知の通り、私は長男でも妾腹で家督相続は弟です。小さい頃から私は弟の部下として育てられました。そこに愛情などありませんでした。その程度の親子であり家族なのですから亡くなっても特別な感情って有りませんね」
俺に気を遣ったのかも知れないが、アルフレッドは淡々とそう述べるだけだった。
「そう言ってもらえると気が楽だ」
「いえ本心だよ、エイッさん!」
「ありがとう、アルさん!」
「いや、礼を言うのはこっちだよエイッさん。親父が死んで肩の荷が降りたって感じ」
初めて会った時、お互いに酔ってこう呼び合った。
つまり彼は心の底からそう思っていると言いたいのだろう。
いずれにせよ、この言葉はありがたかった。
それにしても死んだ父親を肩の荷呼ばわりかい!
「悪いがアルさんには親父の尻拭いをしてもらうぜ!」
「今度は何でしょう?」
アルフレッドは自分の推し進めた孤児院の充実が、父親である伯爵によって盗賊被害による孤児の人身売買に使われていた事を知り悔恨の涙を流した。
ある意味彼も伯爵の被害者なのかも知れない。
「もうすぐ行われる王国海軍との合同演習なんだが」
ここでは中止の要請とその理由を語った。
「承知しました。演習は中止にさせます!」
欲しかった答えを力強く言い切ってくれた。
「ゲイリーは王国海軍と来ると思うが、陸には上げるな。ろくな事にはならないだろう」
王宮魔術師は地位が高い。国王の耳目となるべく国中を回っている王宮魔術師は国王からそれだけの地位と権利を保証されている。
今回もリックは代官であるアルフレッドに高圧的に命じるが、この時のアルフレッドは跪いて聞いている。
「恐れながら申し上げます。王国海軍は既に到着され、ゲイリー様は下船されております」
「何時からだ?」
「昨日の夕方に到着されました。海軍は港に近い宿舎に滞在していますが、ゲイリー様は」
「娼舘に居るのであろう」
色情魔のゲイリーなら当たり前過ぎる行き先だな。
ゲイリーの話題になってからリックの機嫌が悪い。
「海軍の提督には僕が事情を説明して、直ぐに王都に艦隊ごと引き返させます。エイジはゲイリーを引っ張り出して下さい」
「判った」
とは言え、うーん。
事情が有るとは言え、妻を大事にしようと思った矢先に娼舘に足を向けるって如何なの?




