名乗っても 名前で呼ばない 奴と呼ぶ
奴の目が眩んでいる今がチャンスだ!
「悪く思うなよ!」
身体強化しても奴の間合いに入ればそれも無効化されるに違いない。
だから奴の間合いの外から攻撃しなければならないのだが、剣と槍ではリーチの差が有る。こういう場合は槍が有利な筈だ!
「!!」
人間でも動物でも力を込める時は呼吸を止める。
その例に漏れず俺も息をせずに必死に突く!
ここでの負けは死を意味するのだから、文字通り必死だ!
持てる限りの力、いや身体強化によって実力以上の身体能力となった今、俺の繰り出す槍は尋常ならざる速さと力強さで奴を貫く!筈だった。
「なんてな」
目が眩んでいる筈の奴は勝ち誇った様な涼しい表情で、俺の槍攻撃を凌ぐ。
クソ、騙しやがって!
奴にあの魔法で作った照明弾がどう見えたのかは判らないが、どうやらあの剣が有る限りは間接的でも魔法は通用しない様だ。
「当てが外れたな!」
見下す様に言うが、間合いの外の身体強化は無効化されていない!
「お前の魔法は俺には通じないが、俺は遠慮なく使わせてもらう!」
奴が剣を大きく振りかぶった。
次の瞬間、最初にゴーレムを切った真空刃の様な物が放たれ、俺に襲い掛かって来た!
「その剣はそんな使い方も出来るのか?」
魔法障壁を展開して事なきを得たが、あれは並の魔術師以上の魔力だったぞ!
「無効化した魔法の魔力を吸収して使っている。俺自身は魔法は使えない。どうだ、自分の魔力で攻撃される気分は?」
再利用かよ。無駄が無いな。
「道理で強いと思ったぜ!ならばその剣と、この槍で勝負だ!」
とは言え、剣の腕前は中々なので俺の槍では仕留められないだろう。
今日初めて槍を握った人間に槍術なんて無理!
技とか無くて、ただ単純に突くだけなんだから。
本当の狙いはセッティングしたもう1本の槍だ。それで仕留める!
「改めて聞こう、名は?」
この態度で生かすか殺すかを決めるつもりだ。
「エリクソン伯爵軍筆頭剣士、ロバート・ギブソン」
「魔道士、エイジ・ナガサキ」
こうやって戦いの最中にお互いに名乗るって、何か気持ち良いな!
コイツを殺すのは止めておこう!
「忠告する。俺は魔道士だ。魔道士として勝たせてもらう!」
「魔法が通じないのにか?」
「悪く思うなよ」
忠告はした。後は作戦を実行するだけだ。
フェアでない事は百も承知。俺は自分で槍を構えると同時に、さっき作ったゴーレム2体を奴の左右に展開させる。
「やれやれ、ゴーレムは俺に触れる事も出来んのに」
呆れたのか、奴の緊張感が幾らか和らいだ今がチャンスだ!
「行くぞ!」
掛け声と共に奴に向かって2体のゴーレムに石を投げさせる!
ゴーレムの動力は俺の魔力だが、ゴーレムがオーバースローで投げる石の推進力は物理的な力であり、魔力ではない!
案の定、石は剣に無効化される事無く、左右から奴に襲い掛かる!
流石に左右から挟み撃ちにされれば剣の達人とは言え一溜まりも無い!
剣で何発かは凌いでいたが1発喰らうと、2発目、3発目とどんどん被弾するペースが加速している!
「卑劣な!」
「言っただろ。魔道士として勝つと」
結構なダメージの筈なのに、まだ剣を手放さないのは立派だ。
その剣を手放せば痛い思いもしなくて済むのに。
「負けを認めろ。これ以上は痛め付けたくない!」
「黙れ、魔道士に負けたとあっては閣下に申し訳が」
あの伯爵、そこまで義理立てすべき奴なのか?
そろそろ次の段階に進めよう。
「ファイヤーボール!」
無効化される前提で敢えて魔法を使う。
狙いは2つ。1つは、石の対処にてんてこ舞いの様なので、あわよくば無効化が解除されていないかの確認。
もう1つは無効化がまだ有効な場合、奴の集中力を俺に向けておきたい。
奥の手の為に。
「何を無駄な事を今さら!」
俺の放った火の玉は無惨に消え去り、無効化は有効だった。
今度は連射。からの爆発だ!
煙がある程度収まったのを見てから再び槍で攻撃だ。
実はこの槍による攻撃、当てようとは思っていない。第2の槍が届くまでの間、集中力を俺に向けさせる為だけだ。
左右のゴーレムを徐々に中央に移動させる。これで集中力が更に前だけに向くに違いない。
無効化の範囲が背後に及んでいない事が
「俺が踏み込めばゴーレムは消え去る!俺のかっ…ち」
奴の身体はそう言い掛けて崩れ落ちた。
背後では通信用としてリックに渡した身長20センチ位のプチゴーレムが槍を奴に突き刺していた。
魔法が通用しない時はどうしようかと思った。強敵だった。
プチゴーレムを作っておいた事は運が良かっただけだが、セクシー映像を流す為に俺だけ別行動した事がここで役に立つとは。




