不謹慎 クロエ助けて 思う事
「先ずは『妻』を解放してもらおうか!」
「返して欲しければワシへの無礼を詫びよ!跪け!」
この偉ぶった態度、さっきまでスイに拘束されながらもセクシー映像をチラ見していた人物とは思えないな。
その伯爵の言葉が合図の様に、クロエを連れ出した兵士は剣を抜くとクロエの喉元に突き付けた!
「エイジさん!」
「もう大丈夫だ!すぐに助ける!」
だが実際問題としてクロエが俺の能力を信頼してくれているのか、大して怖がっていない。
「ねえ、どうやって助けてくれるの?」
こんな事を口にするくらいに、まるで他人事だな!
人質になっている本人がそんな様子なのは安心はするが、早く助けてやった方が良いに越した事はない、筈だよな?
俺は右手をピストルの形にして、銃口となる人差し指からレーザーポインターの赤い光を出す。
狙いはクロエを連れている兵士の肩だ。下手に剣を落とす事になるとクロエも怪我をしかねないが、肩ならば剣を握ったまま腕を降ろすだけで済むと思う。
思えばコイツも気の毒だよな。伯爵の声が掛かった時に偶々そこに居ただけでこの役目。
おまけに人質は大して怖がっていないから任務としては微妙だし、これから肩を打ち抜かれるのだから。
それを命じた伯爵本人は暢気に勝った気でいやがる!
「ツッチー、伯爵に腰の高さまでの大地の牙だ。俺がお前にやった様に」
やっぱりこの伯爵はムカつく!
「それでしたら20秒程お待ち下さい」
あっ、そうか!お前らは詠唱するんだよな。
「貴様、何を企んっ!」
伯爵はその先の言葉を発せられない!
20秒経ち大地の牙、土で出来た三角錐が勢い良く伯爵の尻に突き刺さる!
それと同時に俺がレーザーポインターの出力を一気に上げると、兵士の肩を赤い光が貫いた!
「きゃ!」
右肩を打ち抜かれた兵士は目論見通り、剣を握ったまま右腕をブラリと下げ、クロエを掴んでいた左手を右肩に当てた。
すると後ろ手に縛られているクロエは突然放されてバランスを失ってしまったが、何とかダッシュしてその細い身体を支える事は出来た。
実年齢42歳の身体にこのダッシュは応える!
「クロエ、良くやってくれた。クレアを守ってくれてたんだな!」
「当たり前でしょ。大事な妹を人質になんかに出せる訳ないじゃない!」
クロエらしい。
改めて抱き止めて判った事が有る。気の強い料理人だと思っていたが、クロエの身体は意外に細い。
こんな細い身体で自らの身を危険に晒してまで妹を守ろうなんて、大したお姉ちゃんだよ。
「エイジさん」
気が付くとクロエを強く抱き締めていた。
その時の俺は、クロエ・オブライエンという女性の存在がとても尊く感じた。
「エイジさん。あの」
「何も言うな。俺は」
「じゃなくて、縄をほどいて。痛いのよ!」
あっ、そっちね。クロエの言葉で我に返ると、こんな時に不謹慎だがある物の存在に気付いてしまった!
後ろ手に縛られているクロエを抱き締めると、胸の感触がダイレクトに来ている!
最初は狙った訳ではないが、こうなると放すのが惜しいな。
こんな機会は滅多に無い!
「ちょっとエイジさん」
名残惜しいがクロエを解放してやると、改めて抱き合い解放を喜んだ。
しかし今度は前ほどダイレクトにはならないので、そう言う意味では残念ではある。
クレアの身代わりになったクロエの入手方法として伯爵は内通者と言ったが、姉妹を間違えるという事はアベニールの町に来て日が浅い者なんだろうな。
その辺りを伯爵本人に聞いてみよう!
尤も大地の牙によって、さっきから声にならない悲鳴を上げているのだが。
「ツッチー」
「御意!」
言わなくても大地の牙が引っ込む。その辺の意思疎通はバッチリだ!
「伯爵、聞きたい事が山ほど有る。今日は長い夜になりそうだな」
「ワシを誰だと思っとる!」
「国家転覆に失敗確実な間抜け」
肩で息をする伯爵を、文字通り見下して言ってやった。
「見くびるなよ」
負け惜しみに耳を貸す程、暇ではない。
俺は改めて身長5メートルの巨大ゴーレムを作り出した。
「エイジ、何を?」
「伯爵本人を拘束して戦いは終わった。伯爵軍とも無駄に戦う事も無いだろう」
俺は巨大ゴーレムに伯爵の足を握らせて、逆さ吊りに掲げさせる。
そのゴーレムの姿はまるで、釣り人が魚を掲げて記念撮影しているかの様でもある!
ゴーレムは5メートルなので伯爵は2階建ての一戸建て住宅の屋根の上の高さで掲げられているので、結構遠くまで伯爵のこの醜態は見える筈だ。
「何をする?放さんか!」
「放して良いのか?」
ここで放すのはお約束!




