勧告が 宣戦布告に なっていた
「どう攻めますか?」
「まずは降伏勧告をしてみるか」
伯爵軍の正確な数は知らないが、戦わずに済むのならそれに越したことはないだろう。
俺に魔力の限界は無い。イメージと集中力が有ればそれが魔力となり無限に魔法を使える。しかし今日は道中ずっと魔法を使い続けて流石に疲れた。
「リック、文字を教えてくれないか」
「降伏勧告ですか?」
「ああ。書くのは紙じゃないけどな」
そもそも紙もペンも持ち合わせていない。
俺は自分の考えた言葉をリックに伝え、それを地面に書いてもらうつもりだ。
それを今度はレーザー光線で空に文字を書く!
レーザー光線で夜空に描かれた絵を見た事が有るけど、あんな感じで見せ付けてやればビビるに違いない!
間違ってもレーザーアートなんて見た事無いだろうからな。そういう演出は大事だ!
「それではエイジ、何と?」
「君たちは完全に包囲されている。大人しく武器を捨てて投降しなさい!」
ん?これだと何だか昔の武装した立て籠もり犯みたいだ。意外と難しい物だな。
「エイジ、それではこう書いて下さい」
リックはスラスラと指で地面に文字を書くと自信満ちた表情を浮かべる。意味は不明だがさぞ良い文章に違いない。
「ヨシ!了解だ!」
先ずは本題に入る前にこちらに注目を向けなければならない。
その為に何発かの花火を打ち上げる。結構立派なやつで伯爵軍相手に見せるのは勿体ないが、これで伯爵軍の連中も注目しているに違いない。
それにアベニールの人達も俺が戻ってきた事を認識するだろう。
それにクレアも。あの伯爵軍の向こうに愛する妻が居るのかと思うとやはり意識してしまう。
さっさと終わらせて家に帰ろう!
「これから降伏勧告に入る。終わらない内に奴等が攻めて来たらツッチー、大地の牙で応戦しろ!」
「御意!」
これでレーザーアートに集中出来る!
俺は見易い様に緑色の光を構えた魔法剣から放ち、リックの書いた文字をレーザーアートにした場合をイメージした。
レーザーは魔力を使うから、この剣が有ると無いとで大違いだ。
「どうだ?」
「完璧です!」
リックがニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
俺も思い通りのパフォーマンスが出来て大満足だ!
完璧な降伏勧告の筈だが、伯爵軍は夜だと言うのに結構な気合いを入れてこちらへ向かって来る!
鬼気迫る伯爵軍を見て、何となくリックの書いた内容が判った気がした。
「迎撃するぞ!」
左手の手袋を叩き付ける様な内容だとこうなるのは必定か。
降伏勧告と言うよりも宣戦布告だな、きっと。
正確な数は判らないがそれなりの数は来ている様だ。足音が轟音となって近付く!
死者を減らしたかったのだが、残念だ。
「ツッチー!」
「御意!」
「大地の牙はいらない!」
大地の牙ってこういう戦いには向かなそうだし。
コケながら悲しそうな表情を見せたツッチーには申し訳ないが、ここは俺の見せ場にさせてもらう!
「エイジ、伯爵は生け捕りにして下さい。聞くべき情報が」
「判っている。でもコイツらは大丈夫だな」
伯爵は先陣切っては来ないだろう。ならば駆け寄って来る連中に気を遣う事は無い!
角度の事を考えると距離は有った方が撃ちやすいが、戦闘はアベニールから少しでも離れてしたい。
「ツッチー、今から俺はあの兵士たちの上半身と下半身を光で切り分ける。だがそんな物を見れば気色悪いだろ。だからお前はそれと血痕とかを全部、魔法で土の中に飲み込んでくれ!何事も無かったかの様に。出来るか?」
「御意!」
途端に元気になった!単純だな!
「エイジ、そろそろ」
「ああ。恨むのなら降伏勧告に従わない伯爵か突撃命令を出した上官、それらに逆らえなかった自分を恨んでくれ!」
充分に引き付けた、距離はこんな感じだろう!
俺は脇を締め、自分の腹の高さで魔法剣を構えてレーザー照射を開始する!
先程の鮮やかな緑色とは対照的な、血のような赤い光が伯爵軍に襲い掛かる!
「凄い!」
四天王が異口同音に漏らした。
そこには予告通りに分断された者、完全には切られずに苦しんでいる者、下手に避けようとして逆に首を落として即死している者と様々だが情けは掛けない!
アベニールを囲んでいたのは自分の本意でない者も居たとは思う。
しかし伯爵軍の一員である事には変わりないし、その伯爵軍の目的が、俺の動きを封じる為にクレアを捕らえる事なのだから見逃す訳にはいかない。
「ツッチー!」
「ぎょ、御意」
実際にやるとなると流石に躊躇した様だが、そこは四天王。詠唱を終えると同時に次々と土に飲み込ませていく。
後は伯爵軍の本体をどう叩くかだな。
「それにしてもリック、伯爵軍が勢い良く向かって来たが、あれは何て意味だったんだ?」
「愚か者どもに降伏か死かを選択する権利を与える。地獄の業火でその身を焼くか、灼熱の爆風で四肢を散らすか、或いは…」
うん、予想の範囲内だ。




