氷上で だんじり祭り 体感す
身長3メートルのゴーレムに勢い良く押させてソリは滑走を始める!
体感的には時速50キロ以上は出ていたと思うが、氷上を滑走する事は思ったよりも快適!
と思っていたが、減速が予想以上に激しい!
残念ながら何事もそうは都合良く行かない様だ。
主な原因は空気抵抗だと思うのが、これはもう仕方ない。5人が丸1日乗る事と、この後は船にする事を考えると競技用のソリの様にする訳にはいかない。
「エイジ、もうすぐエイジの作ったコースが終わります」
「判っている。総員、始め!」
俺の合図で土属性のツッチーが進行方向の地面を凹ませて溝を作り出す。その溝は踏み固められたかの様に締まっていて、そのままよりも水が溜まりやすそうだ。単なる俺のイメージだけど。
「次、スイ!」
「はっ!」
ツッチーが作った溝に今度は水属性のスイが放水を始める!
水を溜める所が溝だけになったので、当初の想定よりも溜めやすい筈だ。
そしてその水が地面に吸収される前に俺が凍らせてコースが出来上がる!
これを滑走しながら続ける。
「コントロールはフー、頼むぞ!」
「御意!」
風属性のフーは右へ左へと風を吹かせてコントロールを続けている。
誰か1人でもタイミングが遅れればアウトだ。
「リックはこの割り符を持ってゴーレムを頼む」
「心得ました」
ソリの速度はどうしても落ちるので、リックにはその度にゴーレムで押してもらう。
リックが操るゴーレムの他にもソリの左右に数体のオート機能で走るゴーレムを配置している。フーのコントロールで間に合わない場合にコースアウトを防ぐ目的だ。押す作業は意外に気遣いが必要なのでオート機能デバイスなくリックにしか頼めない。
ソリの左右に配置したゴーレムは、時速40キロ位で溝の外側を走らせている。スピードは飽くまでも俺の体感だ。
スピードは出したいけど、事故も怖いのでこのスピードで落ち着かせる事にした。
しかし時速40キロで100メートルを走ると9秒。そう考えると世界一の短距離走者でも時速40キロ弱なのでかなりの速さと言える。
このスピードはゴーレムを操る割り符を握っている人物が魔力の豊富な王宮魔術師のリックだから可能なのだろう。
ただ、割り符で同時に2体のゴーレムを動かした人間はリックが初めてだと思う。
リックは只の涼しげなイケメン魔術師では無い。今日は一段と気合いが入っている!
「だけどこれって」
滑走するソリの左右を走るゴーレムの集団に目をやって思った。
大阪府岸和田市のだんじり祭りみたいだな!
聞いた話ではお盆や正月よりも祭りは大事らしい。
少し気持ちに余裕が出来たのか、そんな事を思っていると周囲に目が行く様になる。
みんな少し疲れてきた様だった。
「川までの辛抱だ! 頑張ってくれ!」
「御意!」
もう暫く進むとスイが少し遅れ始めてきた。
これは個人の力量と言うよりも、工程的な物だと思う。それは仕方ない。
だがここで躓く訳にはいかない!
俺は左手で放水を開始してスイを手伝い、右手では魔力を増幅させる魔法剣を用いて凍らせる。
今までよりも水面が落ち着く前に凍らせるので氷面が凸凹なのは仕方ない!
このスピードを維持しながら進む事が大事なのだ。
そんなこんなで1時間位滑走を続けると何か見えてきた!
流石に疲労感漂っている四天王もキラキラ光る水面を見ると表情が変わる。遂に見えた、川だ!
「リック!」
「ええ。あの川でアベニールの近くまで行ける筈ですよ!」
ここまでは計画通りだ。
そしてこの先、アベニールに着いて伯爵軍を蹴散らすまで計画通りにしてみせる!




