ソリ完成 ようやくどうにか 出発だ
「おはようございます。ゆっくりと眠れましたか?」
翌朝、メイドに案内されて朝食を食べに行くと、既にリックが座っている。
昨夜はお互いに結構飲んだ筈なのに、そんな事を全く感じさせない爽やかな対応だ。
調子に乗って飲み過ぎてしまう美味い酒を用意してくれていたお陰で、昨夜の事は殆ど覚えていない。
かなり豪華なのはこの朝食を見れば明らかなんだが、記憶が朧気なのは勿体なくて仕方ない。
せめてこの朝食は眼に焼き付けておこう。ゆで卵に黒トリュフソースとか。
「食べたらソリを確認して出発だな」
「ええ。昨夜は徹夜で作業していますので、きっとご期待に沿える物が出来上がっている筈ですよ」
「無理言って悪かったかな?」
「いえ当然ですよ。国の大事ですから」
リックは変わらず涼しい顔だ。
「リック、判っているとは思うが彼等に労いの言葉を掛けてやってくれ。労働者は精神的にはそれで報われるんだ」
「判っていますよ。それに加えて彼等には充分な報酬と休養を与えます」
ニッと微笑むリックを見て安堵した。やっぱりイケメンだ!
「エイジ、出発の準備はお済みですか?」
「鞄だけだ。あっ、リック、昨日打ち合わせで使った地図とチェスの駒を借りて行っていいかな?」
「勿論!それでは早速参りましょう!」
お茶を飲み終えるとリックの掛け声で俺達は席を立つ。
簡単な支度を終えて館を出るとそこには指定した時間通りに仕上がったソリが置いて有った。
「如何でしょうか?」
昨日の技術者が4人の仲間を引き連れて恐る恐る尋ねて来たが、無理を徹夜でやってくれたんだ。多少の思う所は無きにしもあらずだが言える訳も無い!
ソリは馬車を改造して作られている。車は無い代わりに刃が付いている。
川下りの船になる時には刃は外せる様になっているし浸水しない様に底が補強されており、その補強の結果として僅かながらも流線型になっている。
その他にも耐久性確保の為にあっちこっちが補強してあるし、船の動力となりそうなオールとかも有る。
「リック、彼等には報酬と休養を」
「よくやってくれた。お前たちの働きがこの国を救う事になる!本当によく頑張ってくれた!」
リックは技術者の手を両手で取ると、一人一人に言って回った。
「エイジ、後は3人の四天王ですね」
「ああ。魔力に期待はしていないが、川まで行ければ何とかなりそうだ」
屋敷の整備の行き届いた庭でゴーレムを作り出す事に抵抗は有ったが、リックの許可を得て4体の中サイズを作り出す。
「庭師さん、ごめんなさい」
ゴーレムの背中に芝生が生えている事に申し訳無さを感じながらも、俺とリックを乗せたソリを担いで運ばせる。
これって神輿にでも乗っている感じだな!
このまま四天王を闇で包んで置いてある門の脇まで向かうのだが、当然ながら街中では注目を浴びて流石に恥ずかしい。
その気は無かったのだが、さながらパレードの様になってしまった!
そんなこんなで到着すると直ぐに四天王を闇から解き放ってやる。
「プハァ!」
「おおあ!」
「アァァ!」
それぞれに再び光を浴びられた事に喜びを感じて涙ぐむ。それ以上の言葉が出ないかの様だったが、これは成功の証!
「お前たち、俺の為に働け!」
敢えて威圧的な態度を取ったのは主従関係構築の為だ。
コイツらは俺に敗れた。それだけでなく闇に包まれていた。それを解除すると同時に治癒魔法で怪我を治してやれば俺の為に働く筈だ。
「御意」
思惑通りだが、自分がこれを言われる事になるとは思わなかった。
コイツらとは今日1日の付き合いなので名前を覚える自信が無い。そこでコードネームを付ける事にした。この勢いなら言える!
「大地の牙はツッチー、水属性のお前はスイ、風属性のお前はフーだ。良いな?」
「御意!」
門の外に出ると一気に視界が広がる!
取り敢えず行くべき川までは特に何も無く荒野らしいので心配は要らない。
森とか岩山は吹き飛ばすつもりだったから、手間を省けてよかった!
「エイジ、行きましょう!」
「ああ、行こう!」
アベニールに施した防御は鉄壁の筈だが、やはり不安も少しは有る。
はやる気持ちを抑えつつ、四天王に役割を説明してから、お手本とばかりに俺がコースを作って見せる。
コースの両脇の土を隆起させてそこに水を撒いて凍らせた。
飽くまでもお手本なので長さは2キロぐらいだと思うが、そこから先は四天王の出番だ。
「こんな感じで作ってくれ。出来るか?」
「よろしいでしょうか?」
ツッチーが発言の許可を求めている。
「どうした?」
「コースの両脇を隆起させるよりもコースの分だけ凹ませる方が簡単ですし、水も溜まりやすいかと」
言われてみればだな!
「よく思い付いた! スイもフーも改善点に気が付いたら言ってくれ」
「御意!」
頼もしく、3人の声が揃った。流石に俺だけで全部やるのはしんどいから、頼りにさせてもらおう。
前を向いた俺の頭には、今夜クレアと会える事しか無かった!




