晩餐会 高級ワインで マリアージュ
「これが泊まる部屋か!」
通された部屋は案の定、広くて大きくて立派な部屋だった!
領主屋敷の客間だから当然かも知れないが、元の世界での俺には終生泊まる事は無かったであろう外資系の高級ホテルなんか問題じゃない! と思う。あっちには泊まった事が無いから言い切れないのが悲しい。
部屋の中には天蓋付きのベッドまで有るが、これで今晩寝るんだよな?
落ち着いて寝られそうに無いな。そもそもこの天蓋って何の役に立つのだろう?
元々は小市民なんだ。もう少しシンプルな部屋に変えてもらえないかリックに相談してみよう。
とは言え、フカフカのベッドは素晴らしい!
こんなベッドでクレアを可愛がってやりたいなぁ、何て妄想が膨らむ!
その為にも明日中にアベニールに着いて伯爵軍を蹴散らさなければ!
何とか部屋を汚さない様に気を遣いながら過ごしていると、部屋のドアがノックされた。
「失礼します。お食事の準備が整いました」
10代後半に見える栗色の長い髪のメイドが食堂まで案内してくれると言う。
確かに誰か案内人が居なければ確実に迷子になるだろう。
「君はこの屋敷にはどの位前から居るの?」
無言で歩くのも変な緊張感が有るので、何て事の無い話をしてみる。
「3年前からです」
中々の可愛い声で答えてきた。
「年は?」
「17歳です」
聞かれた事しか答えない。愛想が良いんだか悪いんだかがよく分からない!
この雰囲気で名前まで聞いたら、何となくだけど更に変な雰囲気になりそうなので止めておく。
「リックはこの屋敷にはよく帰って来るの?」
こういう時は共通の知人の話題しか無い!
「いいえ。私は初めてお目に掛かりました。ご主人様の御子息様は御2人しかいらっしゃらないと伺っておりましたので」
「えっ?」
「あっ!」
行商の婆さんと同じ事を言ったメイドは、しまったと言った表情を見せる。
「あの、今の事は聞かなかった事にして頂けないでしょうか」
そんな、真っ正面向いて言われたら断れる訳もない。
「そりゃあ構わないけど」
「有り難うございます。あっ、もう着きます」
メイドがドアをノックして食堂に入ると、かなり長いテーブルだと言うのに、テーブル狭しと見るからにご馳走が並んでいる!
「さぁ、エイジこちらへ」
リックに促されて席に着くと同時に給仕係があれこれ用意してくれる。
ワインも複数用意してあって、料理の品毎にワインを変えて飲むそうだ。豪勢だな。
「それでは、本日は我が友エイジを我が家へ迎え入れられて嬉しく思います。乾杯!」
思えば、こうやって改まって2人だけで乾杯なんてしたのは初めてかも知れない。
「うん、美味いな!」
「お口に合って何よりです」
俺の事をどう伝えたのか気になるが、グラスを置いた瞬間にワインが注ぎ込まれる!
そして見た事無いご馳走の数々!
ワインと料理のマリアージュの連続で、酒が進む!
「エイジ、気に入って頂けましたか?」
俺につられたのか今日はリックも結構飲んだ。
酒の勢いを拝借して、行商の婆さんとメイドの言っていた事を聞いてみよう。モヤモヤ解消だ!
「なあリック、リックはレイス子爵家の3男だろ!町でな、領主の息子は2人だけだと言っている奴が居たんだが、領民への認知が足りないんじやないのか!」
実際には呂律が回っていないかも知れないが、そんな事を言ってみた。
「エイジ!」
ドン! と珍しくリックがテーブルを拳で叩く。
聞いてはいけない事だったのか?
「僕は、妾の子供なのでそんな事を言われるのです」
目が据わっている!目の前に居るのはイケメンの酔っ払いだった!
認知はされているんだろうけど、妾の子供ってそんな扱いか。
「そうだったのか!済まなかったなぁ!」
そして俺も酔っ払い。この後の記憶はあまり無い。
酒が美味すぎなのが悪いんだ!




