ボブスレー 長距離移動 出来るかな
リックを探すと案の定、仮眠など取らずにあっちこっちに指示を出しては考え込んでいる。
昨夜は徹夜だぞ。俺ならその考え込んだ姿勢で眠り込む自信が有る。
動いていないと寧ろ不安になるのかも知れない。
それじゃ俺の考えたプランをリックにプレゼンしてみるか。実行するには領主の息子であるリックの力が必要になるし。
「リック、明日の朝にアベニールに向けて出発する。その為のソリを用意して欲しいんだ」
「ソリ?」
「ああ。上手く行けば明日の夕方にはアベニールに到着出来る。そうすれば明後日には王都に着くぞ!」
「本当ですか?」
リックの瞳が輝きを取り戻した。
でも、最高に順調に事が運べた場合なんだよな。そんな事は言えないけど。
まぁ、ジングルベルがソリの歌だから思い付いたやり方だが、このまま何もしないよりかはマシだと思う。
「先ずあの四天王の土の奴にコースとなる溝を作らせる。大地の牙の応用だな」
リックにイメージが湧かない様なので自分でやりながら説明する事にした。百聞は一見にしかず!
俺は自分の足元から30メートル先までそんなに深くなく直線で地面を軽く凹ませ、両脇を隆起させる。溝になる様に。
「次に水の奴に水を撒かせて、その水を俺が凍らせる。コースが凍った所でゴーレムに押させて勢いを付けて出発する。風の奴は舵役だ。方向の調整をする」
出来た溝に水を撒いて自分で凍らせる。
更にゴーレムを作って押させて、俺は氷上を滑走!
結構なスピードだ!
仕上げとして、風魔法で逆噴射して減速した。本番では全部直線って言う訳にはいかないだろうから、風圧の向きで方向の調整するつもりだ。
イメージとしてはトナカイが引くソリではなくて、ボブスレーかな。
これを滑走しながら継続的に行う。
問題は四天王が何処まで継続的にこれを出来るかだが、それはやってみないと判らない。
最悪は全てを俺がする事になるかも知れないけど、やってみるしかない。
「了解しました。用意させましょう。担当者を寄越しますのでソリについて詳しく説明して下さい。エイジが必要とするソリを一晩で用意してご覧にいれます!」
本物のボブスレーのスピードは到底不可能だが、ゴーレムに押させると結構速い。
単純計算だが時速50キロ平均だとしたら6時間で到着する筈だ。
「では今晩はゆっくりと休みましょう。エイジには屋敷の客間で休んで頂きますよ」
おお!遂に領主の屋敷からご招待を受けた!
箸を置けないご馳走とフカフカのベッドが待っているに違い無い!
「それじゃお言葉に甘えさせてもらおうかな。でもどうか、お構いなく」
本音言うと、構ってくれ!
最近はまともな所で寝てないからな。
「僕は屋敷に行き支度を指示してきます。エイジはこの場にて少々お待ち下さい。迎えの者を寄越します」
「了解。本当に気を遣わないでくれ!」
客なんて滅多に来ないだろうから、思いっ切り遣おう!
なんて本音が言える訳もない。
「さてと」
レイス家の迎えの者を待っているのも暇だ。とは言え別に領都は囲まれてはいたけど、それだけだから特段の被害は無い。
暇だな。俺は闇で包んだ公爵軍の兵士1人を闇から解放してみた。
「プハァ、ハァハァ」
目の焦点は合っておらず、息は荒いが闇で包む時間が短かったせいかまだ精神は参っていない様だ。
一兵卒でもこの様子だと、やはり四天王は最低でも一晩は闇で包まないとならないな。
別に一兵卒から情報を聞き出そうとは思っていない。ただ途中経過が知りたかっただけなんだ。申し訳無いがまた包まれてくれ!
こうしてまた暇になる。
「お兄さん、何か買わないかい?」
暇を持て余していると、人懐っこい行商の婆さんに声を掛けられた。何でも田舎町から旦那さんと行商に来たそうだが、公爵軍に囲まれ帰るに帰れなかったそうだ。これでやっと帰れるので最後の一稼ぎって言う訳らしい。
こういう行商の婆さんは話が上手いな。ペースに引き込まれてドライフルーツとか買っちまった!
「えっ、お兄さんが公爵軍をやっつけたのかい?」
「うん、まあね」
既に買い物は済んだが婆さんとの会話は続く。ドライフルーツって水分が抜けて甘味や栄養が凝縮されているし、保存が効くから良いよな。良い買い物した。
「ひゃあ、そんなに凄い魔道士が何でこんな所に?」
一々驚くからつい口が軽くなってしまう。恐るべし、行商婆さんのコミュ力!
「ここの領主のレイス子爵の3男とは友人なんだよ」
「いやだお兄さん、領主様の家は次男までだよ!」
驚く俺に婆さんは、冗談に対するツッコミの様に笑って手を素早く左右に振っていた。
えっ?でもリックはレイス子爵家の3男だって言っていたが。えっ?




