四天王 3人だったら 何と呼ぶ
万事休す。
そういう訳で少し休ませてもらおうか。
誰でもそうだろうが、張り詰めた緊張の糸がプッツリと切れるとドッと疲れが押し寄せてくる。
もうリックの屋敷のフカフカベッドはどうでも良い。何処でもいいから横になって休みたい。
「リック、少し休もう。少し頭を休ませないと良い考えも出ない」
「そうですね。エイジは戦ったのですから休んで下さい」
やっぱりリックの声には力が無い。
その対策も寝ながら考えよう。
「あっ、でもその前に」
門番小屋の仮眠所で寝かせてもらえる事になった俺は、焼き殺した赤マント以外の残り3人の四天王や、まだ生きている公爵軍の兵士を闇で包む事を忘れなかった。
全身を痛みや熱さに襲われた状態のまま闇に包み、孤独と絶望感を味あわせた後で解放してやれば何かの役に立つかも知れない。
「リック、お言葉に甘えさせてもらって寝る。何か有ったら起こしてくれ」
「了解しました。僕もある程度の指示を出したら休みます」
リックの言葉を受け、仮眠所の名ばかりのベッドで泥の様に寝た。
それからどの位経ったのだろう?
門番小屋は静かな所ではない。物音で起きてしまった。
太陽の高さからして、今は昼下がりかな?
寝転がったままの姿勢で色々と考えが巡る。
王都も大事だが、伯爵軍に囲まれているアベニールにも行かなくてはならない。
きっとここと同じ感じだろう。
伯爵軍が侵入する事は無いだろうが、何よりクレアが心配だ。
ああクレアに会いたい。抱き締めてキスをしたい。そして夫婦の営みを、あの膨らみが殆ど無い胸を…おっと脱線する所だった。
話を戻すと、アベニールにはワイバーンがまだ2匹いる!
一発逆転を狙うにはそれしかない!
頭の中で暗算を始める。
既に国境付近の村に馬車がミラを迎えに出ている。領都に着くのは早くても明日の午後だろう。
ここからエリクソン伯爵領の領都クーベルまで馬車なら3日だったと思った。
ここからならクーベルもアベニールも同じ位だと思う。
アベニールから王都までは馬車で半月。
数字で考える。振動や馬の体力を考えると馬車の時速は12キロ位。体感的に。1日馬車で動く場合の移動時間は10時間位かな?
これなら朝8時に出掛けて、18時に次の宿場町に着く計算。馬車で1日とは最大で120キロ位か。
でも休憩時間が入るともっと短くなるかもなので、100キロ位が関の山か。
馬車の中で寝て夜通しぶっ通しての移動は道も真っ暗で危ないし魔物も出るし、よく眠れなくて現実的ではないそうだ。
となると馬車で3日は約300キロ?
身体強化したとは言え、ワイバーンは何キロで進んだんだ?
まあいいや。数学が苦手な俺のざっくりとした計算だから。
アベニールから王都までは馬車で半月だと聞いた。
ざっくりだけど、1500キロ位?
ワイバーンを身体強化しても機械みたいにはいかないだろう。時速100キロで飛ぶにしても、ぶっ通しで15時間って訳にはいかない。
生き物である以上、休みは必要だ。ワイバーンを飛ばしてもやっぱり2日間は最低掛かる。それも全てが順調でだ。
アベニールに行くのに3日、王都に行くのに2日間だとしたら最短で5日。
四天王の口振りからして、5日は遅くともって言う意味だろうから、ギリアウトか。
無防備な王都は持ち堪えられないだろうな。
それに王都の中に入られたら、市民に被害を出さずに公爵軍の排除は難しいだろう。
やっぱり詰んだか。
何とかアベニールまで早く着ける手段があればな。
考えていると目が冴える。
もう眠れそうに無いので小屋の外に出ると公爵軍の兵士達の遺体は順調に片付けられていた。
領都防衛隊にとんがり帽子を被ったパーティー仕様のゴーレムを貸してあげたから捗っただろう。
パーティー仕様と言ってもあんな帽子を被るのはクリスマスに子供が被るかどうかだけど。
ジングルベルとか歌いながら。
「ん?クリスマスパーティー?ジングルベル?」
そうか!
ジングルベルだ!
やった事は無いけど八方塞がりの今なら試す価値は有るかも知れない!
問題は俺の魔力の回復具合と、あのトリオになった四天王がどれ程使えるのかだが。




