椎名さん 魔法のヒント 感謝します
ロバートを見送った俺達は、このままレイス子爵領の領都に向かう事にした。
せめて死者の弔い、つまりは埋葬はしたかったが時間的余裕が無くて本当に後ろ髪を引かれる思いだ。
それは改めてレイス子爵の兵士にやってもらわなければならない。
遺体を野晒しもしておくとメンタル面でも問題なのだが、衛生的にも問題が有る。
「この村の悲劇を繰り返してはなりません。領都へ急ぎましょう!」
自分の実家の領地の村だと言うのにリックが意外と落ち着いている。
そう振る舞っているだけなのか?
「そうだな。領都の公爵軍を吹っ飛ばしたら、子爵軍にこの村に来てもらおう!」
生き残っている村民の保護、死者の弔い、それに村の復興。更にはランバート王国の国境警備隊員5名の遺体は綺麗にして、立派な棺に入れて返還しなければならない。
「ワイバーンを用意だ。領都まで飛んで、公爵軍が居れば直ぐに殲滅してやる!」
これは、この村を守ろうにした者達の弔い合戦の意味合いがある。
遠慮無く、ぶっ放す!
「エイジ、公爵軍の狙いは王都への救援要請を出させる事です。既に本体は領都を囲み、公爵の目的は達成されたと思われます。しかし領都はまだ堕ちていないと思います。あそこは守りが堅いので」
「そうか、すぐに飛ぶぞ!」
「待って!あの人たちに安らぎを与えたいの!」
待ったを掛けたミラの言う「あの人たち」とは村の生き残りである女子供と老人だ。
それぞれ夫や父親、或いは息子を亡くしたばかりである。心の安らぎとは程遠い状態である事は容易に想像出来る。
「傷を治すだけでなく、心を癒す事も出来るのか?」
「やった事は無いけど、出来る気がするの」
確証は無いが、歴史から消された聖女とは何らかの縁が有ると思われるミラ。今回はその聖女の血が騒いだのか?
「すぐに出来るかは判らないけど」
未経験な事なのでミラのトーンが低めだ。
「ミラ、時間が無いのは判るな?」
「うん。でも…」
ここであっさりと俺に従わなくて良かった。
「だから領都には俺とリックだけで飛ぶ。良いよな、リック?」
「ミラを連れて来た理由は、ミラの能力を必要とする人を癒してもらう為ですからね。今がその時なのですよ、ミラ!」
「エイジ、リック」
「領都でもミラが早急に必要な時は迎えに来ます。だから今は心に傷を負った人々に寄り添ってあげると良いでしょう」
リックがミラに優しく微笑む。
「あの、私は?」
「お前は感情的になりすぎだ!このまま領都に行かせる訳にはいかない!ここでミラの手伝いでもしてなさい!」
リックがディックに厳しく怒鳴る。
「リック、早く行こう!」
このままだと王宮魔術師団と言う体育会系組織の説教が始まりそうだったので、切り上げる事にした。
「飛びますよ!」
御者が手を動かすと俺達を乗せたワイバーンは翼を広げて大空へと飛び立った。
ここに来る時は夜間飛行だったが、明るくなると絶景だな!
急ぎでなければもっと堪能したいくらいだ!
「公爵軍が領都を囲んでいたら、そのまま空から魔法を放つ。でいいんだよな?」
「はい、それでお願いします。あとそれと、私を先に領都内に降ろして頂けませんか?」
「それは構わないが」
「エイジの魔法で壊滅的になった公爵軍に対して、領都防衛隊を僕が指揮して打って出るつもりです」
「領都防衛隊?軍ではなくて?」
「レイス子爵軍は王宮絡みの案件で王都近郊に居ります。全て公爵の目論見通りと言う訳です。しかし、こちらにはエイジと言う切り札が居ます!」
「リック」
「エイジこんな時ですが、いえ、こんな時だからこそ偉大なる伝説の大魔道士シーナの言葉を伝えます。抽象的なのですが同郷のエイジなら判るかと」
俺は椎名さんが残した言葉を聞いた。
これはリックが王宮魔術師の書庫で探し出した魔導書に、この世界の言葉で書いてあったそうだがリックには何の事だか判らないらしい。
本来ならばリックが王都から戻った時に試す筈だったが、色々あって後回しにしてしまったからな。
ほぼ連想ゲームだったが、俺はすぐに判った!
椎名さん、有り難うございます。早速、公爵軍に使わせて頂きます!




