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近隣の 付き合い方は 大事です

「お前がこの村をこんなに……」


 ミラの治癒魔法によって傷が癒えたランバート王国の国境警備隊だと名乗った男に、激昂したディックが詰め寄り胸ぐらを掴んだ!

 付き合いは短いがこんなに感情を露わにするなんてディックにしては珍しい!


「待て!彼がこの村を襲ったにしては合点がいきません!こんな時こそ落ち着け!」


「そうよ!襲った方が死にかけて倒れているなんて変よ!」


 すっかりエキサイトしているディックに対してリックとミラが何とか落ち着かせようとしている。

 それじゃ俺も何か言わなければ!


「落ち着いて、彼の話を聞いてみようじゃないか!」


 大した事は言えなかった。悲しいが俺ってそんなもんだ。


「畏まりました」


 そんなこんなで何とかディックも落ち着きを取り戻した所で、事情聴取を始めよう。


「見ての通りこの村は襲われた。そしてランバート王国の国境警備隊に所属する者が居る。我々が何を言いたいのかは理解出来るか?」


「それは理解出来ます。しかしこの村を襲ったのは我々ではありません」


 ロバート・ボンドと名乗ったこの男は、実に堂々とした態度で言った。

 歳は20代後半ではないだろうか。このやり取りだけだともっと上の様な落ち着きを感じる。


「では何故、この村に居る?」


「お答え致しましょう。我々はレイス子爵軍を騙る集団を追って参りました。レイス子爵領とはお互いに有事の際の越境は認められていますので」


「そんな事を認めて大丈夫か?子爵的に?」


 俺は不意に思った事をリックに聞く。

 国としてランバート王国との付き合い方が一貫していない印象だ。

 この国、ディラーク王国がランバート王国と友好的でありたいのなら、エリクソン伯爵がちょこまか仕掛けている事は咎められるであろうし、逆に緊張感を持つのであれば交流を認めるレイス子爵の立場はどうなんだろう?


「エイジ、基本的にディラーク王国はどの国にも侵攻の意思は有りません。それに従って我が領ではランバート王国と独自の交流が有ります」


「その交流が、魔物の情報交換か?」


 俺の問いにロバートが身を乗り出して来た。


「それだけで無く、我がランバート王国では干ばつが頻発します。そうなるとレイス子爵閣下は食料と魔物を交換して下さります!」


「その魔物は死んでいれば解体して部位ごとに使えますし、生きていれば訓練の相手にする等して有効利用しています」


「慈善事業じゃないんだな。でもリック、隣国が干ばつなのに山を越えただけのここは大丈夫なのか?」


「こちらでは川から農業用水を取水していますので、心配ご無用です!」


 そうか。水魔法で散水するのかと思ったが、流石に範囲が広いもんな。


「我が国では川が少なくて貯水が出来ません」


「溜池とか出来ないのか?」


「ちょっと、何の話をしてるの!」


 そのまま俺とリックとロバートで農業用水の話になりかけたが、ミラに引き戻された。

 ナイスだ、ミラ!


「つまり、我が国ではレイス子爵閣下を悪く思う者は居りません。ところが数日前から国境付近で村々を襲う集団が現れ、西から東に移動しました」


 ロバートによる、改めての報告だ。


「その集団がレイス子爵軍を騙ったと?」


「はい。レイス子爵軍の旗を掲げていましたが、直ぐに偽者だと判りました」


「何故だ?」


「レイス子爵軍ならば、わざわざ国の西端から国境を越える必要は有りますまい。いつも行き来して警戒心の薄い、ここから国境を越えれば良いのですから」


 公爵め、自領から国境を越えたからバレバレだな!


「それで何故ここに居た?」


「偽りのレイス子爵軍を追って来ました。しかし我々が追い付いた時には既に乱取りが始まっていまして、当然ながら我々は村民に加勢したのですが…」


 乱取り、つまりは略奪だ。金目の物は奪われ、女は犯され、子供は攫われる。

 元の世界でも近年の戦争は知らないが、20世紀までは世界中で行われていた。

 

「多勢に無勢か。国境警備隊は何人で来た?」


「自分を含めて6名です!」


 それを聞いてリックがロバートにぐっと近寄った!


「ロバート・ボンド殿、ディラーク王国を代表して貴殿らの行為に深く御礼申し上げる。また、亡くなられた5名の国境警備隊員に謹んで哀悼の意を捧げます」


 リックがロバートに敬礼をしている!

 それにディックも続いた。

 俺はしないで知りたい事を聞く。空気を読んでる時間的余裕は無い。


「ロバート、ランバート王国軍は動くか?」


「国境警備隊員が死んでいます。これを上が知った時にどう思うかでしょう」


「すぐに帰国して進軍を止めて頂きたい!それこそレイス子爵軍を騙った者の思う壺です!」


 ディックがロバートの両手を掴んで懇願している。


「私だってそうしたい。しかし私はその立場にありません」


 ロバートは悔しいと言うか、残念そうな表情を浮かべる。


「国王陛下の親書を用意してあります。これを然るべき方にお渡し下さい。ディック、例の物を!」


 何処から用意したのか、ディックが親書を持っている。しかも何通も!


「こんな事もあろうかと様々なシチュエーションでの親書を用意してあります!」


 用意は良いのは結構だが、有り難みが無いなその親書は!

 リックが今回のケースに合う親書を選び、ロバートはそれを受け取ると帰国の途につく。

 去り際にチラチラとミラを見ていたのは、まあ仕方ないか。元気に回復した証拠だな。

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