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徹夜明け 走るのツラいぞ オッサンは

「生存者は居なかったか」


 只でさえ徹夜だと言うのに、生存者が居なかったと言う事実を受け入れざるを得なかった俺達は、一気に疲労と絶望感に襲われる。


「見付けた遺体は皆、剣で刺されていました。その上、遺体を村ごと焼こうだなんて」


 ディックは沈痛な面持ちでそれだけを言って、黙ってしまった。


「エリクソン伯爵領と違いこの地域とランバート王国はこれまでは良好な関係で、こんな事は有りませんでした。しかし今回ばかりは本気で怒らせた様です」


「エリクソン伯爵領みたいな小競り合いも無かったのか?」


「ええ。むしろ国境付近の魔物や天災の情報を共有したりしていました。それがこんな事に」


 領主の3男であるリックは意外と冷静の様だ。

 てっきりもっと怒っているか落ち込んでいるかと思ったが、むしろディックの方が悲しんでいる様に見える。

 ディックって意外と感受性が強いのかも。

 

「遺体は皆、男か」


 遺体の共通点と言えば成人男性と言う事か。更に言えば武装など全くしていない。

 多分だけど、武器も無い農民が村を守ろうとしたと推測した。

 男が村を守ろうとしたのは分かったが、女と子供はどうしたんだ?

 連れて行くにしても女子供全員を連れて行くのは難しいだろう。

 抵抗する者もいるだろうし、連れて行く価値の低い者だっているだろう。

 それに老人の姿も無い。

 農村と言えば、老人だ。なのに此処には老人の遺体が全く無い。

 何か変だな。どういう事だろう?

 

「待って、何か聞こえない?」


 俺には聞こえなかったが、ミラには何かが聞こえた様だ。


「赤ちゃん?」


「えっ?」


 耳の穴をかっぽじて、耳を澄ませてみる。


「本当だ!」


 確かに聞こえた。泣き声が!


「行きましょう!」


 最初に気付いたミラは既に駆けだしている。

 もちろん直ぐに追い掛けたいが、徹夜明けのオッサンにそれは酷というものだ!

 結局は、ショックの大きそうなディックはそのままにして、俺とリックはミラを追い掛ける。

 どっちでも良いから、この徹夜で水魔法を使いまくったオッサンに回復魔法を頼む!


「ここね!」


 ミラは倉庫の様な建物の前で止まった。

 この建物は壁が少し焦げてはいるが、それだけで済んだ様だ。

 中に入ると、やっぱり倉庫だ。樽が並んでる。


「エイジ、人の姿は見えませんが気配はします」

 

「この樽は、ワインか?」


 葡萄の季節だからな。ここで新酒でも仕込んでいたのか中身の入っている樽も有れば、空の樽も転がっている。


「ん?」


 微かだが赤ちゃんの泣き声が聞こえる。

 何処だ?


「我々は怪しい者ではない!領主の息子のリック・レイスとその一行が助けに来たぞ!」


 俺の叫びに何かが反応しているのが判る。

 何処だ?


「エイジ、ここよ!」


 周囲を歩き回ったミラが床を指差す。するとそこには床下収納の蓋が有るではないか!

 なるほど、ワインを一定温度で保存する為の地下スペースか。

 蓋を開けてミラが顔を突っ込む。


「私たちは領主の息子のリックに頼まれて来たの!助けが遅くなってごめんなさい」


 こういう時の声かけは女性に限る。

 今迄は息を殺していた様だが、ミラが声を掛けると人の気配はするし、物音もした。間違いなく誰かしら居る!

 凄いなミラは!

 ここが判ったのだって聴覚だけでなく、何か違う能力で感知したのではないか?

 こんな地下の声なんて普通は聞こえないぞ!


「ほら、リックも」


「ええ、分かりました」


 ミラの声だけでは出ては来ない様だ。

 女性でダメならイケメンだ!

 しかも領主の息子なら文句無いだろう!


「レイス家3男のリックだ!助けを連れて来たが間に合わずに済まない。生存者の保護をしたい!」


「本当に若様ですか?」


 老人が顔を出したのを皮切りに、続々と生存者が現れる。流石は領主の家系!

 自分で梯子を登れる者は自分で登り、老人や赤ちゃんを連れた母親はワイン樽を出し入れする為の滑車を使って吊り上げられた。

 その中から1人の老女がリックの前に歩み寄る。


「若様、村長の妻でございます。申し訳ありません。村を守れませんでした。夫も息子も戦ったのですが」


 村長の妻だと言うその老女は泣き崩れてしまい、それ以上は話せる状態ではなかった。


「皆さん、まだ息の有る者が居ました!」


 しんみりムードにディックの声が響くと、その場は俄にざわつく。

 直ぐにディックの所へ向かうと、ディックは血塗れの男を抱えている。

 この男は鎧を着ている。


「任せて!」


 駆け付けたミラが手を当てると、息をしているのかが怪しいくらいの虫の息の男の傷がたちまち治っていく。

 

「ありがとうございます」


 呼吸はまだ荒いが、もう大丈夫だろう。

 

「お前はこの村の住民か?」


 リックから確認の為の質問だ。


「いえ自分はランバート王国国境警備隊のロバート・ボンドです」


「何!ランバート王国の国境警備隊だと?」


 この村をこんなにした張本人じゃないか!

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