初めてか エリスとローラの 組み合わせ
移動に必要な時間を計算してみた。
領都からアベニールまでは馬車だと丸1日掛かる。
途中に休憩時間も必要だろうから、実質10時間くらいであろうか。
そして馬車の速度は意外に遅い。
道が凸凹していて速度を上げると振動が激しい事や、馬の体力を考えて抑えざるを得ないのだと思うのだが、時速にすれば石畳の道でも20キロ以下くらいの感じだ。
舗装されていない道だともっと遅くなる。
そういう訳で、平均時速12キロと仮定した場合は領都とアベニールの距離は約120キロだと推測される。
となると結論として、やっぱり空を飛べる魔物であるワイバーンは必要だと言う事になる。
ワイバーンの速度は判らないが、仮に時速60キロで2時間飛べればアベニールには着く。
空を飛ぶって、やっぱり画期的だ!
そういう訳で、急ぐ身だがアベニールから戻って来るミラを待つ以外にする事は得に無い。
今頃ミラはアベニールに着いて、クロエの料理でも食べながらクレア達にこっちの事とか話しているんだろうな。
余計な事は言うなよ!
宿屋に戻りそんな事を考えていれば、その余計な事の主役であるローラと会う。
ミラがクレアと会っている今、ローラは身体だけでなく存在その物が爆発物だ!
取りあえず今日は不発弾で頼む!
「エイジ様!」
今回はアリとリサだけでなく、エリスも一緒だ。珍しい組み合わせだな。
「おっ、今いる女性陣が全員集合してどうした?」
「エイジ様、私たち皆でローラさんの歌を聞いていましたの」
「ローラの歌?」
歌とは珍しいイベントだな。
そもそもこの世界の歌を俺は知らない。
「ローラさんったらとても綺麗な歌声で、まるで船人を誘い込む魔女の様でした」
褒めているのか、それ?
聞いても分からないと思うけど、どんな歌なんだろう?
「ローラ、それじゃ俺にも聞かせてくれないか?」
「そんな!旦那様にお聞かせする程の歌では」
ローラは慌てた素振りを見せるが、その顔は何だか嬉しそうだ。
本当は歌う事が好きなのかな?
「謙遜するな。エリスがこう言うなんて珍しいからかな。聞かせてくれ」
「はい。でもエリスさんが仰る程には上手くないですよ!」
魔女の様とかってそれ、褒め言葉じゃないから!
「それでは」
照れながらもローラの披露した歌声は魔女なんかではなく、この癒されていく様な感覚は澄み切った天使の歌声だった!
歌っている曲は民謡か何かなのかは知らないが、曲も良かった!
ローラの歌声にピッタリ合っている。
「この曲は?」
「民謡です」
ヤバいな、民謡!
元の世界でもスコットランド民謡が元の歌も有るし、民謡恐るべし!
ローラは何曲かを続けて歌ったが、その何れもが魂に染みてくる様で油断したら泣いていたかも知れない。
「ローラは歌が好きか?」
「はい!」
その質問を待っていましたと言わんばかりに満面の笑みで返したローラだが、これは意外な才能だ!
俺はローラに歌について聞いてみると、亡くなったローラの母親が歌を好きでよく歌っていたそうだ。
武闘家の父親と歌が好きな母親か。
両親からしっかりと能力を引き継いでいるんだな。
何とかこのローラの能力が活用出来る道が有れば良いのだが。
「エイジ様、どうかされましたか?」
「いやな、ローラのこの能力をどうにか活かせないかと思ってな」
ゴーレムオペレーターでも武闘家でも勿体ない!
歌えるし、動ける。
そうだ、ミュージカル女優だ!
「それは何ですか?」
早速本人に提案してみたが、ミュージカルを知らなかった!
この世界には無いんだな。
そこでミュージカルについて簡単に説明してみたが反応は薄い。
「よく分かりませんが楽しそうですね」
愛想笑いまで浮かべられた。
まあいいや。全部片付いたらショッピングモールの舞台で上演だ!
ローラはきっと身体は男性に、歌は女性に好評を博すに違いない!
ベランダに出てアベニールの方を向き、そんな事を考えている時だった!
「エイジ!」
ミラの声が聞こえた気がした。
ミラが戻るのは明日の筈だ。空耳か?
「エイジ!」
やっぱりミラの声だ!
見上げるとミラを乗せたワイバーンがそこに居る!
「ミラ、どうした?帰りは明日の筈だろ!」
「エイジ、大変よ!」
ミラが声を張り上げる。何が有ったと言うのだ?
「アベニールが伯爵の軍勢に囲まれているわ!」
必死な形相でミラが叫んでいるが、意外過ぎる事に俺は呆然としていた。




