ワイバーン 何が何でも 飛ばせます
幹部連中の後始末はアルフレッドに任せて俺達はその場を後にした。
アルフレッドが幹部連中を責める所を見ても時間の無駄でしかない。
「気分じゃないかも知れないが、1回落ち着こう!」
代官所から宿屋に帰る道すがら、柄にもなく敢えて明るい声を出し2人をお茶に誘ってみた。
人間って考え込むとどんどん視野が狭くなって良い結果は得られないと思っている。
何か良い解決方法を考える為にも1度立ち止まり、全体を見てみる。その上で優先事項を決める方が良いと思う。
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
適当な店に入りお茶を1口飲んだ所でようやく2人とも落ち着きを取り戻した様だ。
リックの口調が完璧ではないにしろ、ほぼ元通りになった。
「まずレイス領でも王都でも、何処に行くにも交通手段だな。飛んで行けたら良かったのだが」
「それは仕方ありません。此処には飛べるワイバーンが居ませんし、他に人を乗せて飛べる物もありませんから」
「しかし悔しいな。予想はほぼ当たっていたのに全てに於いて後手に回っている」
こうなると王宮魔術師が何人もアベニールに滞在してクレアを守っていてくれている事を申し訳なく思う。
「あちらの出方は予想通りですが、こちらもまた彼等の予想の範囲内の動きをしているとも言えます」
リックの言う通りだな。だが俺達がもう行動している事はまだ伝わっていないだろう。
伯爵達は、俺達が港建設に取り掛かっていると思っている筈だ。
何とかそのアドバンテージを活かさなければ!
「せめてレイス領の様子が判れば良いのですが」
ディックがため息交じりで呟く。
それが出来れば悩みはしないんだよ。
「アベニールに居る2匹のワイバーンを使えればな」
「エイジ、今何と?」
俺がボソッと呟いた事にリックが反応を示した。
「いや、だからアベニールに居る2匹のワイバーンを使えればって。あっちのは無傷だから」
「それですよ!」
らしくもなくリックが興奮して立ち上がる!
「怪我して飛べないワイバーンを僕かエイジ、或いはミラの治癒魔法で治せれば1匹は飛べます!」
「なるほどです。その1匹でアベニールに飛び、残りの2匹と合流すれば3匹になります!」
気持ちは判るが、足し算の解説はしなくても結構だからな、ディック。
早速お茶を飲み干し、俺とリックは代官所に急いで戻った。ディックには念の為にミラを呼んで来てもらう事にした。
もう門番には顔パスなのでそのままアルフレッドに掛け合ってワイバーンを診せてもらう事にした。
尤もアルフレッドは貴重な治癒魔法の使い手がそんなに居る事に驚きを隠せず、「はい」しか口に出来なかった。
厩舎と言えば良いのかな?
ワイバーンが居る建物に案内されると、そこには苦しそうに横たわるワイバーンが居た!
体中の至る所の鱗が剥げ落ち、翼は惨めに破れてワイバーンだという先入観が無ければとても天翔る竜には見えない。
「これはエイジの攻撃でなったのでしょうか?」
「そうだと思うが、逆に此処まで良く飛べたな!」
本当にそう思う。
一応は厩舎に居るのだから治る見込みは有るのだろうか?
「如何でしょうか?」
アルフレッドの問いには気軽には答えられない。
やってみるしか無いのだが。
俺が近付こうとするや否や暴れ出し、俺を今の全力で拒否する。
自分に重傷を負わせた人間を理解している様だ。
知能が高いって言のも厄介だな。
「それじゃ僕が」
と近付いたリックにも噛みつかんばかりに威嚇をする。
どうやら知能が高くて傷を負わせた俺を分かっている訳ではなくて、こんな状態だから気が立っているだけか!
これでは治癒魔法を施せやしない。
「ちょっと何をしているの!」
薄暗い厩舎に一筋の光が差し込んだ様な気にさせる華やいだ声が響く。
ディックに連れられたミラが姿を現した。
「ダメじゃない、2人とも」
ミラは俺達の横をスッと抜けると、そのままワイバーンに向かった。
「ミラ、危ない」
注意をしようとした瞬間、信じられない物を見た。
「痛かったね。もう大丈夫だよ」
ワイバーンは暴れるどころかミラに甘えやがった!
このワイバーンは知能が高い訳でも、傷で気が立っている訳でもなくて、単なる女好きなのか?
コイツに乗って空を飛ぶと言う事は、コイツに命を預けるって言う事だよな。
何か嫌だな。




