切り札の 竜の背中に 乗れなくて
伯爵家の家臣である代官所の幹部を全員捕らえて尋問しても、予想通りに知らぬ存ぜぬだった。
そこでアルフレッドの許可を得て、魔力を解放して全員の前で1人の足の骨を折ってやれば効果覿面!
どいつもこいつも拍子抜けするくらいに簡単に白状し始めた。
「彼等の証言の信憑性は大丈夫でしょうか?」
心配そうにリックが聞いてくるが、俺は心配していない。
我が身可愛さで額に脂汗を流して咄嗟に出る言葉だ、嘘を考える余裕は無いと見ている。
「後は個別で取り調べだ。さじ加減が難しいが大丈夫だろう」
元の世界で建設現場の監督をしていた頃に、すねに傷の有る作業員から聞いた話なのでそれこそ信憑性は疑わしいが、集団犯罪に対応する警察は個別に取り調べ、情状酌量の余地は早い者勝ちとなる。
情状酌量は誰にでも無限に有る訳ではなくて、円グラフなのだ。
ここから先の事情聴取はコイツらによるパイの奪い合いと言うか持っている情報のプレゼンであり、お互いに共犯者を売り合う場となる。
未成年による集団犯罪の取り調べでも、
「仲間は絶対に売らない!」
と言って黙っていた少年が、詳細な手口を白状したA君、警察も把握していなかった余罪まで白状してくれたB君、証拠の隠し場所等を白状したC君、と仲間だと言っていた連中に情状酌量を全て持って行かれ、他の3人が執行猶予なのに1人で塀の中に行ったそうだ。
当然、その時点で仲間でも何でもない。
警察の言う反省しているとは、事件解決に有益な情報を提供する事が反省していると言う事になるのだ。
そしてコイツら、魔道具としたICレコーダーの録音内容を聞かせたら顔を青くしていた。
証拠としては充分だった様だ。
「何でも話します!どうか命だけは、ご慈悲を」
やはりコイツらには信念とか無かったんだな。やり易くて良いけど。
俺達の予想は概ね合っていた。
と言う事は、もう計画は進行していると言う事か?
「レイス領には10日程前からランバート王国から兵が雪崩れ込んでいます。今頃は占拠されているでしょう」
その言葉にリックは拳を握り締める。リックの心境を察すると、俺はその顔を見られなかった。
正確には見たくなかったのだ。
常に涼しげなリックが怒りに震える様を。
「レイス領から王都までは馬車だと半月程度です。早馬だとその半分。今頃は陸軍が王都を出た頃でしょう」
それだけ言う事が精一杯の様だった。
こんな時こそディックにフォローをして欲しかったが、ディックも一緒になって沈痛な面持ちだ。
こんな時くらいは頼れる後輩でいてくれよ!
「今からゴーレムで出たとしても丸1日は掛かるだろう。ゴーレムは疲れないから、早馬で行くよりも早いとは思うが」
が、の先を言えない。
余りお薦めは出来ないのだ。ゴーレムが走ると大きく上下に揺れて長くは乗っていられないからだ。
物理的には無理ではないけど、かなりツラい。
ゴーレムが人力車の様に車を引く分には良いのだが。
本音ではゴーレムにおぶさったり、肩車による長距離移動は拒否したいが、急いで領地に行きたいであろうリックに、持っているアイデアを提案せずにはいられなかった。
「差し出がましい様ですが、当家のワイバーンをお使い下さい」
ワイバーン?
そりゃ、飛んで行った方が早いだろう。
アルフレッドの申し出は両手を挙げて歓迎したい!
「よろしいのですか?」
そんなつもりは微塵も無いが、一応の奥ゆかしさを見せておく。それがマナーだ。
「お役に立てるのなら本望です。4匹います。数もちょうど良い!」
ちょっと待て!ワイバーンが4匹?
「直ぐに支度させます。少々お待ち下さい」
アルフレッドは一礼して建物内へと消えて行った。
その後ろ姿を見送ってから幹部連中へと視線を落とすと、全員一致で目が泳いでいるではないか!
予想は付くけど、最初にロンが俺に挑戦した時に1匹をこんがりと焼いた。残りの3匹はアベニールで俺を襲う事に使った訳だよな?
それで、その内の2匹は俺が生け捕りにしたから1匹しかいない筈だよな。俺の引き算が正しければ。
「今居るのは1匹か?」
「……はい………」
「ですが……」
「その1匹も飛べません!」
幹部連中は俺を襲撃した事を認め、事態を説明し始める。
「帰って来たワイバーンは1匹だけで、その1匹も翼に酷い怪我をしております。とても飛べません」
膨らんだ希望が一気に萎む。
俺は正当防衛だと思うが、事態がこうなると多少の申し訳なさも感じる。
って言うか、襲撃なんかにそんな大事なワイバーンを使うなよ!




