その罪に アルフレッドが 悔い悔やむ
「なるほど、南のランバート王国に気を取られている間に北のスティード王国が攻め込んで来ると」
「北と南に軍勢を引き付けて、手薄になった王都を狙うと言う事ですね」
リックとディックはそう言うと黙り込み、それぞれに渋い表情を浮かべる。
これはこれで絵になるから、イケメンって不思議だ。
「まんまと彼等の作戦に乗せられましたね」
今から王都に向かったとしても不眠不休と言う訳にはいかない。
馬車で半月ならゴーレムで急いでも10日間くらい掛かるだろう。
一斉蜂起なら間に合わない。
それに王都よりもアベニールの街に残してきたクレアの方が心配だ。
縁もゆかりも無い王都が戦火に包まれるより、クレアがとばっちりを受けないかが心配でならない。
「エイジ、今後の動き方に付いて考えましょう」
「そ、そうだな」
この2人の前では、俺は領都を発ってアベニールに戻るとはとてもじゃないが言える雰囲気ではないな。
「この作戦には危うさを感じます。北のスティード王国が手を貸すだけで修まるのかって」
「ディック、どういう事だ」
「そんな事に手を貸す国ですよ。仮に親王派が粛清されてゲイリーがお飾りの王になったとします」
結構な事を言うな。
「その後にスティード王国との関係性を考えると」
「つまりディックはスティード王国には何か思惑が有ると?」
「はい。自分の勝手な予測ですが、事実上の従属国となるか領土の割譲、良くても様々な分野での不平等条約となるのではないかと」
「そうか、属国化だ!」
突然リックが何かを思い付いたかの様に立ち上がって声を立てた。
「王族を完全に排除する事は反王派にも抵抗が有る。だからゲイリーの様な無能な男こそ属国化には必要な人物なんですよ!」
「恐らくは、形ばかりの自治権となりそうですね。そして自治政府のトップとして公爵が座る」
形ばかりの自治権と聞いて、某国を思い浮かべてしまった。
あれは悲劇と言う言葉では軽すぎる。
「領都を出る準備をしよう。女子供はアベニールに戻して、俺達3人はレイス領に向かおう!」
言い終わってから思い出した。トニーの存在を。
でもあのトニーだから、港の設計が終わらない限りは帰らない気がする。何とかしないと。
すぐにみんなを集めて帰らせたいけど、ローラ以外の女性陣は買い物に出て夕方まで戻らない。
どうした物かと考えていると、コンコンとドアがノックされた。
「お客さんがお見えですよ!」
来客を告げる女将の声だ。
このタイミングで宿屋に客という事で一瞬、坂本龍馬暗殺の事が頭を過った。
龍馬暗殺の実行犯は見廻組となっているが、俺は龍馬ほどの大物ではない。公の組織が動く事は無いだろう。せいぜい金で雇われた者を使うだろうが、考え過ぎだな。
「アルフレッドさんと名乗っていますが」
代官直々かよ!
この部屋に通す訳にもいくまい。女将に何とか面会出来そうな場所を提供してももらった。
と言っても飾り気の全く無い薄暗い部屋に、テーブルと椅子が有るだけだ。
そこにアルフレッドは共の者を連れずに1人で入って来た。
「娼館の裏帳簿を抑えました。そして娼婦1人1人から事情聴取し、娼婦になった経緯を調査しました」
アルフレッドは何時になく沈痛な面持ちだ。
でも申し訳ないが、それはもう余り重要ではない。
「私は自分が恥ずかしい!」
狭い部屋で声を荒げた。
「娼婦の中に孤児院から売られて来た者が多くいました。男は労働力として売られていた事実も確認しました。私が力を入れていた孤児院がそんな事に使われていたなんて」
男泣きするアルフレッドを見て確信した。
伯爵の息子ではあるが、この男は腐ってはいないと。
「私の罪は計り知れない。どんな罰でも受ける所存です」
「孤児院経由で娼婦になった者達はどうしされましたか?」
「保護しました。各孤児院にも捜査官を派遣しています。悪事の温床になっている孤児院は徹底的に調査をし、然るべき対処をします!」
「アルフレッド様、盗賊被害者の孤児を積極的に孤児院に入れる政策はお父上の発案でしょう。それをその様に仰って良いのですか?」
「調べる程に父の罪が明らかになりました。父を断罪します。私は息子として、1人の人間として許す訳にはいきません!」
アルフレッドは強い口調で決意表明を続けた。
「ならば直ぐに代官所に戻り、いつも後ろに居る連中を拘束しろ!」
ディックが厳しい口調で言い放つ。
意外だがリックとディックと俺では、俺が1番アルフレッドには優しい。
「拘束したら拷問しますが、よろしいですね?」
「無論です!」
俺達の推測がどれだけ正解なのか、答え合わせの時間になるな。




