ゲイリーは 欲にまみれた 色欲魔
ゲイリーは王族で、王宮魔術師団の元団長?
なのに敬称略で良いのか?
「我々、王宮魔術師で彼に敬称を付ける者などおりません」
ディックが珍しく語気を強めて言った。
如何にも蔑んでいるって感じだ。
「リックもか?」
「ええ。彼のお陰で王宮魔術師団は1度組織解体されました。後に再結成となりましたが」
そんなに何かをやらかしたのか?
「彼の事を簡単に言いますと、迷惑な愚か者です!」
簡単だな!
もう少し詳しく頼む。
「彼は先代国王の弟です。年の離れた。現在の国王陛下の叔父に当たり、元の王位継承順位は2位でした」
俺の気持ちを察したのか、ディックが語り始めてくれた。
やっぱり気遣いって大事だよな。
「それが良くなかった。それを笠に着てやりたい放題でした。欲しくなった物を手に入れる為ならば手段を選ばず、刺激を求めて博打に手を染め借金を作っては貴族や商人へとたかりました。それにも増して問題なのは目に付いた女性を強引に手に掛けた事でした」
「女性に対しても最初は口説き、それでなびかなければ恫喝、それでも駄目なら物理的に。自分に従わない者には容赦有りませんでした」
最低な奴だな。
物欲、色欲、育ちは最高な筈なのに欲を丸出しか。
「現在の国王陛下がお生まれになられて継承3位となり、その後も王子が生まれる度に順位は下がり続け、5位まで下がりました。そして王位継承を諦めた彼が着目したのが、王宮魔術師団でした」
「何でだ?」
王族なら希望するポストに就けるだろうけど。
「王位継承の目が無くなり彼の周囲からは潮が引く様に人が居なくなりました。王都に居辛くなったので地方でもう一花咲かせようと思ったのでしょう」
そうか、王宮魔術師なら国中を回るから地方でチヤホヤ敬われ様とした訳か。
ドサ回りする王族って何か虚しい。
「しかし、事件が起こりました」
今までも険しかったが、リックの表情が一層険しくなる。
「それ以降は地方貴族の令嬢やその侍女、目に付いた町娘と手当たり次第に手を出していましたが、そんなある日に出会った相手が悪すぎました」
「交代により帰国する外国の大使一行と鉢合わせてしまい、事もあろうか大使夫人に目を奪われてしまったのです」
その後も2人には似合わない罵詈雑言を含めながら、ゲイリーの所業を語ってもらった。
それによると、ざっとこんな感じだ。
大使夫人に目を付けたゲイリーは王族の地位を利用して近付くが、大使夫人がなびく訳が無い。
そこであろう事か王族の地位を利用して隙を作らせ、腕力で押し倒してしまった。
当然だが大使は大激怒し、両国の緊張は一気に高まり一触即発。
相手国はゲイリーの身柄の引き渡しを求めてきたが王族故にそれは実現されなかった。
何回かの会談で、ゲイリーは王籍剥奪の上で蟄居。監督責任を取って兄である先代国王も、まだ即位間もないのに隠居という事で話が纏まりかけた。
が、ちゃぶ台をひっくり返す人ってどの世界にも居るんだな。
ゲイリーの母、先々代国王の第2夫人が会談の場に現れて王籍剥奪を取り消す様に騒いで話は振り出しに戻る事になった。
それを修正したのが先代国王。
その場で彼女を一刀の下に切り捨てた!
「彼女は死を持って息子の悪行を詫びた。これで協議に異を唱える者は居なくなった!」
と顔色を変えずに高らかに宣言したそうだ。
それは相手国の全権大使一行に与えるには充分過ぎるインパクト。
先代国王の隠居は変わらないが先方からの申し出で、母親の死に免じてゲイリーは継承権剥奪だけで王籍は残った。
事実上の蟄居らしいが。
「そんなゲイリーが何故?」
もう力の無い過去の人だろう?
そんな人間に価値を見出すとしたら何にだろう?
「さっき魔道具からは、公爵と聞こえました。固有名詞が無いので分かりませんが、想像以上の大事になるかも知れません」
気のせいかリックの表情が神妙ながらも、何処か楽しんでいる様にも見えた。気のせいだな。
俺の頭に浮かんだ可能性では楽しんでなんかいられないからだ。
俺の頭に浮かんだ1つの言葉、神輿は軽くて馬鹿が良い!
「まさかねぇ」
いくら何でもそれは大袈裟。
俺は直ぐに自分で否定した。
「エイジ、そのまさかかも知れませんよ。でもエイジならば大丈夫ですよ!」
「王国海軍が集まってこちらで演習と言う事は、国の反対側はガラ空きです。そしてその反対側にはいろいろと黒い噂もあるトルーマン公爵の領地が在りますが、当代随一の魔道士が居れば何とかなりそうな気がします!」
リックだけではなく、ディックも同じ事を考えていたか。
あの、俺の行動って成り行きでこうなっているだけで、別に義憤に駆られた訳じゃない。
この世界に来る数ヶ月前まではリフォーム工事の監督してた人間だよ!
話の流れ的に、こんな俺が国家転覆を防がざるを得ないんですけど。




