闇魔法 解いて泣かれて 従わせ
さて、雰囲気を変えるとしよう。
部屋が更に狭くなるのは仕方ない。ここで昨夜捕らえた男を連れて来て声の主達の関係性を聞いてみようと思う。
宿屋の片隅に置いておいた、闇で包んだ男をゴーレムに連れて来させた。
この後に予想されるこの男の行動にげんなりしつつ、魔法を解いてやる。
「おお!」
パチンと指を鳴らすと魔法が解ける。そんな光景を目の当たりにしたディックから声が漏れた。
その一方で、やはり今まで闇魔法を使った時と同様に、昨晩捕まえた此奴は闇魔法を解除してやると辺りを見回して泣き出した。
汚らしいのでこの手の男が泣く所に立ち合いたくはないが、自分の魔法なので文句も言えない。
それにこの状態になると俺の言う事を聞くようになるのでこの魔法は便利ではある。
闇の中で孤独にさらすこの魔法、一種の洗脳と言えるし、間違えると自我を崩壊させるとか加減が難しいけど。
「洗いざらい喋ってもらうぜ!」
と言ってはみたが此奴の事はさっき下級役人って言っていたな。と言う事は、情報を聞き出す事に期待は出来ないな。
情報って下になる程、情報量も少ないし不確かになっていくからな。
明日以降は解放して、逆にスパイとして役に立ってもらうか。
暫く泣き続けるジョージの様子を注視して尋問を開始する。
「名前は?」
「ジョージと申します。ジョージ・ブラウンです」
まずは名前から聞いてみると、怯えた様に声を絞り出した。
次に下級役人が何故あの場に居たのか聞いてみた。
「盗賊の首領を捕らえる為です。正式な任務として承りました」
「誰から?」
「課長です。アルフレッド様からの特命だと」
なるほどね。下の者を動かす時にはアルフレッドの名前を利用する。
良いように使われているな。
「ジョージ、お前を解放する。明日から普通に通勤して通常業務の他に何か有ったら知らせてくれ。分かったな!」
「畏まりました。仰せのままに」
ジョージは深々と頭を垂れた後に去って行った。
「エイジ、もっと聞かなくて良かったのですか?」
「ジョージからは大した事は聞けないさ。それよりも、代官所内に言うことで聞く奴が居ればこの手の魔道具も仕込み易くなるだろう、リック」
再生を止めたICレコーダーを指差して見せる。
「なるほど、利用価値をそちらに求めた訳ですね」
リックはウンウンと小刻みに頷く。
「取り敢えず分かった事は半月後に演習が有って、そこに来る偉い奴にミラを献上しようって事だな」
「浅はかですよね。出来る訳が無いのに」
「恐らく、舞い上がってしまったのだろう。自分の力量などお構いなしに」
ミラは俺の秘書として来ている。
だから必然的に俺と一緒に居るし、そうでなければ王宮魔術師のリックかディックと一緒だ。
仮にミラが1人で居たとしても、結界を始めとするミラの防御魔法はどうにもならないと思うのだが。
彼奴らめ、物の道理を分かっていなくて良く代官所の勤めを出来るな。
彼奴らの雇い主である伯爵って、もしかしたら心が広いのかな?
「伯爵の上に公爵がいて、更にその上に誰か偉い奴がいるらしいけど、リック達は知っているのか?」
「ええ、まぁ」
リック達は顔を見合わせている。
言いたくないのか。
相手が言いたくなさそうな事は聞かない。
それが俺とリックが出会った時からの暗黙の了解だった。
この世界に来た時、あのソマキの村の倉庫で出会ったリックがもしも俺の事情を根掘り葉掘り聞いてきたら、多分今の魔道士としての俺はないだろう。
簡単に想像出来るな。
そんな事になったら俺は態度を硬化させ、椎名さんの魔導書を読む事が無かっただろう。
その反対に、リックが黙っていたいであろう事は、俺は聞かない。
それで良いと思う。
リックとディックは目配せしている。まるで本当に目で会話しているかの様に見える。
その様子を部屋の奥から見詰めているハリー。
ん?俺の視線に気付いたハリーが近付いて来た。
「少々、宜しいでしょうか?」
「どうした?」
「宜しければ手合わせ願いたいのですが」
「えっ?」
瞬間的に?が頭は過るが、俺だって直ぐに察する。
実際の所、リックとディックが目で会話なんか出来てなかったから、俺をこの部屋から連れ出したかったんだな!
気配りって従者には必須条件のスキルだ。
とは言うものの、街中で手合わせなんて現実的な提案ではない。
武骨者が考えた精一杯なんだな!
「それには及ばないよ。ハリー」
何だか吹っ切れた様な感じでリックがハリーを制する。
「ゲイリーとは、王位継承権を剥奪された王族であり」
リックがそこまで言うとディックが続く。
「王宮魔術師団の元団長です」
2人の息がピッタリだったけど、まさかこの台詞割りを目配せしていた訳じゃないよな?




