軍港は 機能重視で 建てましょう
港建設の現場調査は順調に進むかと思われたが、候補地にトニーが首を捻る。
「ここでは軍港には不適合じゃな!」
「不適合ですか?」
意外そうにアルフレッドが聞き返す。
トニーに不適合とジャッジされた場所は現在の港からも近く、幾つかの倉庫を挟んだだけの所だ。
この候補地を選定したのは誰か知らないが、本来の目的は密輸なのだから、人身売買の商品たる人間を運ぶ移動距離を抑えたいからこその場所だったに違いない。
だが飽くまでも軍港を作るつもりのトニーはここは軍港に向かないと主張する。
「軍艦を人目に晒させない障害になる物も無ければ兵舎を構える広さも無い。遠くまで見渡せる高台も無い。それにこんな街中では敵の工作員に暗躍してくれと言っているも同然じゃ!」
その後、俺達は新しく候補地を選定すべく領都の壁の外まで出て海沿いを馬で見て回ったのだが、いつ覚えたのかミラも馬に乗れる様になっていた事は驚きだった。
10分くらい走った頃、ようやくトニーの条件を満たす場所が見つかった!
「街からは多少離れましたが、軍港ですから実用性重視で!」
一応のフォローは入れておく。
小高い丘があり、そこに物見台を作れば遠くまで見渡せる。
船着場を作るべき所は岩肌が剝き出しだな。
魔法で岩を切り刻むしか無い様だ。
トニーは年甲斐も無く目を爛々とさせ、担当職員にあれこれと指示を出し始めた。
早速、測量する様だ。
流石はドワーフを目指した男だ。仕事に関しての妥協は一切許さない!
問題は依頼主的に本当にここで良いのかだが。
街の外側だと一々門を通らなければならない。どうせ顔パスだろうけど、かなり煩わしいと思う。
そんな事はお構いなしにトニーが現場調査に没頭している間は他の人間は暇だ。
「ほら、エイジ!」
ミラに呼ばれて振り返ると、その手は小さなカニを掴んでいる。
ミラがこんなにはしゃぐ事は珍しい。
思えば今までも年相応に楽しめる様な事をさせていなかったな。
能力の高さ故に色々と仕事をさせてしまった事は反省しなければ。
「海は初めて見たか?」
「うん。初めて見た。この先はどうなっているの?」
「海の先には違う国がある。海は世界に繋がっているんだ」
この世界の事は分からないが、多分そうだろう。
この世界も地球みたいな惑星だよな?
地球が丸かった事が実証される前に思われていたみたいな、世界は亀の上の象に乗っているとか、海の向こうは滝じゃありません様に!
「エイジの国も?」
「そ、そうだな」
そんな気は無いが、本当は違う世界から来たと言える日は来るのだろうか?
「行ってみたいね、エイジの国。どんな所?」
「食べ物は上手いし、親切な人も多くて落とした財布が中身ごと戻る国だ」
よく言われていたけど、自分がその身になった時は感動した事を憶えている。
「いつか連れて行ってね!」
不意にミラが甘えた声を出しながら腕にしがみ付いて来ると、俺の無防備な腕はミラの胸の膨らみに挟まれる。
「ああ」
ミラが何を考えているのかは知らないが、その大きくて柔らかい感触の前では戸惑いながらそう答えるしかなかった。
ミラの奴、初めて海を見てはしゃぎ過ぎたか?
ふと視線をずらすとトニーが手を振っている。
調査が終了した様だ。
「詳しい測量はまだじゃ。それに風や潮についても詳しく調べないとじゃが、それは代官所のスタッフに任せる。ワシは帰って図面を書く。工法の打ち合わせもするぞ」
トニーの意思を尊重しそそくさと領都に戻ると、トニーとミラだけ宿屋に直行し、それ以外は代官所へ向かう。
俺とディックはICレコーダーを回収しなければならないからだ。
「流石にもう居ませんね」
俺とディックは無人の応接室に入るとレコーダーを遠慮無く回収した。
少し再生してみると、期待した通りに声が入っている!
戻ったらリックとハリーも加えて聞こう!
今回は出番が無かったプチゴーレムは持って帰るのも面倒なので残しておく。何かに使えるかな?
「それでは図面と見積書が出来ましたら持参致します」
最後にアルフレッドに挨拶をして代官所を後にする。
「私の方は娼婦の一件を徹底調査致します!」
まだ信頼には足りないが、一応は娼館の裏帳簿を押収する様に言っておく。
それくらいやってもらわないと信用は出来ない。
そんな事を思いつつ代官所を出た直後、お約束が始まった。
「もう矢鱈滅多に権威を振り翳して、最低じゃないですか、僕は!」
情けなさの極みの様な声を上げるのはもう慣れたぞ、ヘタレになったディックよ。




