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どうやらさ アルフレッドは シロみたい

「お待たせして申し訳ございませんでした。どうぞこちらへお越し下さい」


 暇を潰すには余りにも退屈な庭なので、此方もこの時間は打ち合わせに使わせてもらった。 

 それでもしばらく待たされた後、ようやく来たアルフレッドの使いに呼ばれた俺達は彼の執務室に向かった。

 まだ若く、見た所20代半ばの男だ。キビキビした動作は如何にも真面目そうに見える。

 アルフレッド達があの応接室で一体何を話したのか気になる所だが、それは後のお楽しみだな。


「こちらです」


 長い廊下の突き当たりに代官たるアルフレッドの執務室はあった。


「お連れしました!」


 良く通る声だ。

 それに応える様にドアが開かれた。


「お待たせしまして申し訳ございません」


 意外にもアルフレッド自らがドアを開けて俺達を招き入れた。彼なりの誠意なのだろう。


「先ずは、申し訳ございませんでした。あの者達は私の存知得ない事を何かしている様ですが、恥ずかしながら追求出来ておりません」


「それは構わん。それよりいい加減に本題に入ろう」


「はっ!」


 ここからは港建設の話になる。

 応接室での話の内容は気になるが、仕掛けたレコーダーの内容を確認してから対応した方が良いだろう。

 

「先ずは紹介させて下さい。弊社の専属設計技師、トニー・ヒューズです!」


 こんな肩書が無ければ只の貧相なじいさんにしか見えないトニーをもったい付けて紹介した。

 

「あっ、あのトニー・ヒューズですか?」


「流石にこんな田舎にまでその名は轟いていたか!」


 驚きを隠せないアルフレッドに、ディックが何故か偉そうに畳み掛ける。

 

「建築界にその人有りと言われた天才建築家!」


 鬼才と呼ばれたトニーを目の当たりにして、アルフレッドはその後の言葉が出てこない様だ。


「トニー・ヒューズが手掛ける港だ。実用性を担保しながらも美しい事間違い無い!きっと画期的で観光名所にもなるだろう!」


 観光名所って、一応は軍港という名目なんだが。


「突如として姿を消したと伺っていましたが何故こちらへ?」


「諸事情がございまして。細かい事は良いではありませんか。お互いに!」


 ここでニッと笑えば、アルフレッドも同じ表情で応える。

 細かくない奴でよかった!


「ここからは仕事(ビジネス)の話を始めましょう!」


「如何にも!」


 アルフレッドの一言で港建設の話が始まった。

 表向きは軍港だが、実際には盗賊が攫った人々を奴隷として外国に売る為の港。

 軍艦も停泊するが、奴隷運搬船も使う港。

 その建設にはアルフレッドよりも上の者、つまりエリクソン伯爵の関わりが有る筈。

 請負業者として、証拠を掴んでやる!

 尤も作るからには最高の港を作るけどね。


 こっちの話は順調に進み、この後は担当職員を伴って現場を訪れる事になり一段落だ。


 落ち着いた所で、改めて探りを入れてみよう。

 出番だ、ディック!


「さっきは応接室で何を話したのだ?」


「はい。金貨400枚が無料になるなんて有り得ません。ですから代官所の名前で何かしていないかを聴取したのですが、のらりくらりと」


「部下が勝手に何かをしたと?」


「そうは申しませんが実際に領地運営をしているのは彼等です。私は飾りに過ぎません。とは言え、責任は取ります」


「まだ彼等はあの部屋に居るのだな?」


 それが大事だ。俺はあの連中が実際に行動をしているのは間違いないと見ている。彼奴らだけの会話を聞きたい。


「はい。ご指示の通りあの場に留めております」


 ヨシ!今頃は皆して愚痴をこぼしながら次の企みを話している事だろう!


「昨夜の金貨400枚だがな、娼婦の身請けの金額だ。その娼婦が訳ありでな」


 ここまでディックに言ってもらい、目配せして後は自分で説明した。

 ローラの過去を話すとアルフレッドの顔色がみるみるうちに変わっていった。


「そ、そんな事が孤児院で…」


 力無くそれだけを絞り出す事が精一杯の様だ。


 その後は打って変わって慟哭が響き渡る。


「そんな事が、アッ、アーッ、ウォーオー!」


 暫くの間、人目も憚らず泣き叫んでいた。

 これは演技ではないと思う。


「代官アルフレッド・エリクソン。確認する。この伯爵領で孤児院に力を入れていたのは貴様だった筈だ。本当に代官たる貴様は知らなかった事か?」


「はい。しかし私には監督責任が有ります。今すぐにでも領内の娼婦の出所と娼婦になった経緯を調査します!その上で責任を取ります」


 アルフレッドはシロだった様だが、まだ信用は出来ない。


「気持ちは分かるが、代官たる貴様を手玉に取っていた連中だ。焦って動くな!」


「では如何しろと?」


「機が熟するのを待て!」


「急いては事を仕損じるだよ、アルさん!」


 敢えて酔った時にお互いに呼び合った呼び方で呼んでみた。

 こっちは親身になっていると見せたかった。


「エイッさん!」


 酔っ払いだったくせに、憶えていた様だ。

 それじゃ気を取り直して港の現場調査に行くとしますか。


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