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請求書 差し出す先は 代官所

 領都で迎える始めての朝が来た。

 深夜の風呂場の余韻に浸りつつソファで寝たが、意外と頭がスッキリしている。


 昨夜、俺の相手を務めた娼婦のアマンダことローラは2人の少女とまだベッドで寝ている。

 寝顔を見て思う。

 このローラはアマンダと言う源氏名で娼婦として生きていくのか。

 それにこの子達も数年後には娼婦として客を取るのかと思うと何かやるせない。

 ローラが娼婦になった理由は分かった。この子達は親に売られたのだろうか?

 

「うーん、あっ、おはようございます」


 ようやく起きたローラが寝ぼけた声で挨拶して、その後ベッドから俺を見詰めてモジモジしている姿が可愛らしい!

 そんな彼女を見て思った。

 何かの縁だ。出来る事はやってやろう!

 身請けだ。ローラは今ならまだ間に合うと思う。


 俺の頭の中で思い描いた事を提案してみた。


「えっ!身請けですか?」


「俺が治す前の身体は傷だらけじゃないか!ここに居たら下手すれば殺され兼ねない。見過ごせないから引き取る事にした。幾らで身請け出来る?」


「嬉しい!」


 歓喜の叫びはこれまでに無い程の高い声だ。


「あっ、でも無理です。私の借金は金貨80枚だと聞いています」


 今度は一転して地の底の様な低い声で喜びを打ち消した。

 大体の認識として、金貨1枚は日本円にして10万円くらいだと思う。

 それを当て嵌めると、約800万円?

 そんな大金を信用も無い孤児院の娘が借りる?

 担保は自分の身体で?


 有り得ないだろ!

 少し考えれば判りそうな物だが、ローラの頭が弱いのか、孤児院でそう教えられていたのか。

 後者だと思うが、まあいいや。


「ここを出て行く支度をしておけ!」


 俺は身支度を整えると彼女達に伝え、主人の元へ向かった。

 実は目的は他にも有って、一連の企みの証拠となり得る物、帳簿を取り抑えたい。

 表の帳簿だけでなく、孤児院育ちの女を人買いから買った際の本当の仕入れ価格が記載されている裏帳簿の存在を明らかにしなければ。

 帳簿に事実が記載されていなければ、必ず矛盾が生じて嘘だと判る。

 だから捜査機関は書類を押収する。脱税でも偽装工作でも。

 そんな訳で、裏帳簿の存在を確認出来たら上出来なんだが。

 そんな期待もしながら俺は主人の元へ向かった。


 フロントで身請けする旨を伝えると、直ぐに奥から主人が出て来た。


「アマンダを身請けですか?」


「そうだ。あと、俺を案内してくれた2人も身請けしたい。3人で幾らになる?」


「お客様、引っくり返りますよ。そうですね、3人合わせて金貨400枚頂戴出来ますか?」


 3人で最低でも4千万円か!

 絶対に解放する気は無いみたいだな。


「中々だな。内訳は?」


「アマンダが200枚、後の2人合わせて200枚でして、合わせまして400枚となります。お支払い出来ますか?」


 出来る訳が無い、と言いたげに人を食った様な含み笑いをする主人に俺は食い下がってみせる。


「アマンダの借金は80枚だと聞いた。そんな適当に言わないで、ちゃんとアマンダを買った時の帳簿を見てくれ!」


「そんなの見なくても分かります」


「見てくれないと困る。出さないとは言っていない!値段の根拠を示して欲しいだけだ!」


「良いですよ。一月に1人か2人はいらっしゃいますよ。女に入れ込んで身請けを申し出るお客様が」


 主人はカウンターの下から、やれやれと言った感じで帳簿を出して俺に見せる。


「ここに、ローラが金貨100枚とあるでしょう。ローラはアマンダの本名です。あいつの借金は金貨80枚ですが、ウチは100枚で買いました。20枚は仲買人の取り分ですね」


 仲買人って人買いだよな。


「娼婦が娼館を移る際の売値は倍が鉄則。身請けも同様です」


「だから200枚なのか?」


「あの2人につきましては、まだ娼婦ではございませんので買ったままのお代で結構です。せめてものサービスです。身請けされますか?」


 恐らく身請けを申し出た他の人もこの主人(オヤジ)の人を食った態度で挫けていったんだろうな。

 

「俺も素人じゃないんだ。他の帳簿を見てみた方が身のためだぞ」


「帳簿はこれしかござませんよ」


 取り付く島もないな。


「そうか、仕方ないな」


 それでは、お代官様の御威光に縋るとしますか!


「金は払う。が、持ち合わせが無いから請求書はここに回せ!」


 俺はアルフレッドから受け取った証文を取り出し、カウンター越しに見せ付けてやった!

 これには俺が支払うべき金は代官所が支払う旨が書いてある。


「請求書にしっかりと、金貨400枚と記載して代官所に持って来い!午前中はアルフレッド殿と会談していると思うから居るぞ。逃げも隠れもしない!」


「えっ!あ、あの、少々お待ち下さい。奥の帳簿を確認してまいります」


 やっぱり奥に本当の帳簿が有るんだな。

 丁度その時、支度が終わった3人がやって来た。

 支度と言っても着替えただけで、大した物は無い筈だ。


 カウンターには帳簿が置きっぱなしだ。余程慌てていたのか、証拠品なのに無防備だな。

 この帳簿を取ったら警戒されるだろうから、スマホで撮る。後で分析だ。

 奥に裏帳簿も有るそうだが、それは奥から出て来る事はまず無いだろうな。

 でも存在と位置が分かっただけ良いか。


「失礼しました。お代官様のお客様でしたら、アマンダとその2人は差し上げます」


 差し上げるって、無料(タダ)

 4千万円が無料になるなんて絶対におかしいだろ!

 私はクロですと大声で言っているのと同じだ。


「何卒、宜しくお願い致します」  


 不気味だ!こんな朝っぱらからそんな、いかにも悪党って微笑みを浮かべられても、悪い意味で背筋がゾクゾクとする。

 

「承知した。アルフレッド殿。いや、その後ろに居た、何と言ったかな彼は?」


「バローズ様でしょうか」


「そうだ。バローズ殿に宜しく伝えておくよ」


 そのバローズとやらはアルフレッドとの打ち合わせの時に確認するか。



「話は終わった。行くぞ」


「はいっ!」


 俺達は4人揃って花街の門を後にした。

 初秋の朝、空は晴れ渡っていた。

 彼女達の人生のリスタートに相応しい天気だと思う。

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