花街で 領都の夜は 更けていく
さてと、やる事はやったし後は宿屋でゆっくりと寝るとするか。
俺は深夜にも関わらず騒がしくなった爆発現場を後にした。
昨夜は酒場の硬い椅子で寝た。今夜こそはちゃんとベッドで寝たい!
「あれ?」
泊まるべき宿屋は既に灯りが消え、表通りの喧噪が嘘の様な静けさに包まれていた。
当然、戸には鍵が掛けられ中には入れない。
誰も俺が遅くに帰る事を告げなかったのか、告げてあっても宿屋の方が門限を過ぎたら受け入れないのかは知らないが、入れない事には変わりない。
ドアをドンドン叩くのも気が引ける。
夜中に入ろうなんて、シティホテルでもない限りは無理か。
仕方ない、街を彷徨ってみるか。
腹は満たされているので休める所が何処かに無いかと探してみても中々無いな。
カプセルホテルかネットカフェが欲しい!
諦め掛けたその時、深夜だというのに一際異彩を放つ街があった!
ご丁寧に門まであって、門番も居る。
花街だ!
「お一人様で?」
「ああ」
娼館、つまりは売春宿が立ち並び、一夜のアバンチュールを楽しむ街、花街。
気が付けばフラフラと引き寄せられていた。これが花街の魔力か!
門番と言っても入る客のドレスコードをチェックしている訳ではない。
金をちゃんと持っている、冷やかしでない事を証明すれば簡単なやり取りで中に入れてもらえる。
やり取りの中でお薦めの店まで紹介してもらった。どうも門番には無料案内所の役割も有る様だ。
色々と案内された所に行ってみたが、何処も一杯で断られ続ける。
その他の店も一杯でここで最後となる。
よく言えば比較的落ち着いた雰囲気、悪く言えば地味で活気が無い店に入ってみた。
妻が脳裏を過るが、別に女を抱きたい訳ではなく、寝たいだけだ!
妻を残して街を出て、2日目で花街に泊まる事に背徳感を覚えないと言えば嘘になる。
でも多分女を頼まないとならないだろうから、事情を話して俺の事はほっといてもらおう。
売春宿とは言え、宿屋には違いない。泊まりたい客は泊めてもらいたいな。
「いらっしゃいませ」
70歳くらいに見える爺さんが出て来た。
ここの主人か、一見すると好々爺だがこういう人は腹が黒い場合が多い。
「1人で横になって寝たい。金は払う」
「お客様、ご冗談を。ここは女を抱き、日頃の憂さを忘れる夢の場所ですよ」
やっぱりそうだよな。
嬢に直接言うか。
「空きは?」
「1名様なら。前金でお願いします」
他の店は全部一杯だった。
と言う事は、この花街で最後まで残った売れ残り?
「仕方ない、それでお願い…」
「はいっ、ご案内!」
俺が言い終わらない内に主人は年甲斐も無く甲高い声を上げ、財布から摘まみ上げた銀貨を奪う様に徴収していった。
主人の声と同時に、まだ10歳くらいの女の子が2人出て来て、俺をエスコートする。
こんな年齢で遊女屋の下働きなんて、親に売られて来たのだろうな。
彼女達の境遇と、無邪気な笑顔のギャップが何ともやるせない。
客の俺が言うのも何だが!
「お客さん、お姉ちゃんを怒らないで下さい」
「怒る?」
長い廊下で突然、幼さの残る声で言われた。お姉ちゃんと言うのは俺の相手をする嬢の事か。俺の相手をする嬢は何かやらかすのか?
「お姉ちゃん泣いたり、お客さんを殴って1度もちゃんとお仕事して無いの」
「今日もダメだとクビになっちゃう!」
だから売れ残りか!
泣いたり殴るって、どんな遊女だよ!
それにそんな事をしているのなら、遊女屋なんて解雇された方が本人の為なんじゃないかな?
「クビになるとどうなるの?」
優しく聞いてみた。
「お店にお金を返せないから」
「一生下働きだって!」
2人で台詞を分けて教えてくれた。
どんな遊女なのかは知らないが、こっちにその気は無い。料金は変わらないだろうからコンプリートした事にすれば、お互いに良いだろう。
と考えていると、奥の部屋の前で止まった。
「姉さん、お客様をお連れしました」
2人が合図も無しに、声を合わせた。
先程までの無邪気さは無く、声も口調も表情も急に大人びたそれになった。
彼女達も既にプロなんだ!
憐れに感じていた俺は浅はかだな。
「どうぞこちらへ」
案内されるがままに部屋の中に入ると、明るい赤茶色の長い髪の美女が俺を出迎えた!
本当に彼女が最後まで残った売れ残り?
まだ若い!見た目は20歳くらいに見える色香漂うグラマラスだ!
顔は清楚な美少女系、身体は凄い!
ナンバーワンと言われても疑う余地の無い美女だ!
ヤバい、決心が揺らぐ。
「アマンダと申します。可愛がってく…だ…」
言い終わらない内に泣き出した!
俺に取っては渡りに舟だがこりゃ、その気も無くなるわ!




