金の鷲 段取り済んだら 用は無し
アルフレッド達に宿泊先だと告げた金の鷲に戻った俺とディックは、録画していたスマホの画面を確認してみた。
見たかったのは宿泊先を告げた時のアルフレッド達の表情の変化と、屋敷を出てからここまで尾行されていないかだ。
その結果、ヨハンに俺の暗殺を依頼したらしい奴の他に2人の表情に変化が有った。
その場では俺も緊張していた為かよく分からなかったが、こうして録画しておくとよく分かる。
文明の利器って便利だな!
尾行についても簡単に分かった。
スマホをズボンの後ろポケットに挿して歩けば後ろが予想以上にバッチリ映っていた。
あの3人の部下とかなんだろうな。
4人で連携して尾行しているのが丸分かりだ!
それにしてもこうやって必死に尾行している姿を見ていると、間抜けにしか見えない!
「エイジさん、凄いですね!その魔道具はこんな事が可能なのですね!」
スマホを初めて見たディックは録画を再生してから暫くは瞬き1つせずに見入っていたが、ようやく声を奮わせて言葉を絞り出した。
こっちが引く程に感激していたが、初めてこんなの見たら無理も無いか。
最早ディックの仕事ぶりを録画してチェックするという本来の目的はどうでも良くなっていた。
「エイジさん、この後はどうなるのか教えて頂けませんか?」
「そうだな。ディックも当事者だ。知る権利はあるな」
俺が呟く様に言うとディックは何か嬉しそうに見えた。
実際、ディックには今後もっと立ち回ってもらわなければならないのだから、今夜これから起こる事は知っておいてもらいたい。
「恐らく俺達は今夜、寝静まった頃合いを見計らって、襲撃を受ける」
「夜襲ですか?」
「奴等も必死だからな」
「襲撃を予想してこの宿屋にわざわざ部屋を取ったのですか?」
「あっちの宿屋には迷惑掛けたくなかったからな」
だから評判の悪い宿屋を探した。
平気で客を売る宿屋なら襲撃もスムーズに行われるだろう。
案の定、手癖の悪い職員がいる様だ。見極める為に置いておいたテーブルの上の銀貨が無くなっている。
「分かりました。それで何かと強調していたのですね」
「そういう事!さぁ映像チェックも終わったし引き上げるか!」
「引き上げですか?」
「昨夜は椅子で寝たんだ。ディック、今夜はゆっくり寝たいよな?」
「ええ」
実際、ハリーが御する馬車の中でも少し寝た。あんな乗り心地の悪い物でも寝てしまうのだから、ベッドに入ったらヤバイな。
直ぐに夢の世界に行ってしまう事は間違いない。
引き上げに際して準備に取りかかる。
最初は昨日みたいな荒くれ者でもスカウトして身替わりにしようかとも思ったが、それは考え直した。
下手したら死ぬからな。
「ここの庭でゴーレムを5体作る。襲撃の身代わりになるな」
申し訳程度のとても狭い庭を見つけた。植栽の木には悪いがゴーレム5体分の土を貰う事にする。
やっぱり木や花に遠慮すると小振りなゴーレムになってしまうな。
でもお陰で目立たずに移動出来るし、頭や背中に花が咲き誇るゴーレムにならなかった!
「ディック、移動の間にフロントに話を通して職員の気を引いてくれ」
「畏まりました」
ディックはニッと笑みを浮かべる。イケメンが自信を持って笑うと絵になるな。
俺達は早速実行した。
「俺達5人は疲れているから寝る。誰も部屋には近付けるな!」
ディックがフロントの男にきつく念を押す。
この口調ではとても王宮魔術師とか貴族には見えない。
俺達が食事に出掛けて、戻って寝たら襲う算段なんだろう。今は張り込まれてはいない様だ。
きっと今頃は襲撃部隊を用意しているに違いない。
さてと、それじゃ本来の宿屋に戻りますか。
監視の目が無い今の内に風魔法だ。
下に向かって強力な風を噴射させて、裏通りに面した窓からゆっくりと降りる。
ビルに有る避難器具のイメージかな。
さぁ、明日は涼しい顔でアルフレッドにフルコースの請求書を叩き付けてやる!




