会談中 ディックがどんどん 成長す
「お待たせしまして申し訳ございません」
俺達が待っていた部屋にアルフレッドが数人の者を伴い入って来た。
その中には、ヨハンに俺の暗殺を依頼した可能性の有る奴もいる!
さて、どう出ますか。
「お時間取らせて申し訳ございません。お召しにより参りました。こちらは」
「王宮魔術師のリック・レイスだ。エイジとは昵懇の仲でな」
「恐れ入ります。代官のアルフレッド・エリクソンです」
3者の挨拶が済んだ所で本題に入ろう。
ディックの集中力が切れる前にこの会談を終わりにしなければならない!
「分かっていると思うが、国防は国の責務だ。しかし伯爵領に新たに軍港を作るそうだが、何故だ?」
ディック、ここまでは絶好調!
「はい、近頃は商船を狙う海賊による被害が増えてきています。この事は国王陛下より独自の貿易を特別に認められている当家に取って大きな損失です。延いては国家の損失となります。そこで独自に武装した船を用いて可能な範囲で商船の護衛をする所存であり、その船の為の港となります。軍港と言った事は認めますが、それは理解し易いと思ったからです」
「何故国に頼らん?」
「相手が何処かの海軍ならば迷う事無く国に訴えます。しかしながら相手は海賊です。ならば、治安維持は各領主の裁量ですのでこの様な手段に打って出た次第です」
王宮魔術師が来る事は承知済みだ。回答も用意していただろう。
「いやいやリック、そんなにアルフレッド様に噛みつくな。俺は港を作る気で来たんだ。それを足掛かりに領都で商売を広げるつもりだ。言わばアルフレッド様は領都での俺の最大の理解者だ!」
敢えて明るい声を出してみた。
緊張状態では尻尾は出さないだろう。
「アルフレッド様、港の建設予定地は明日見に行ってもよろしいでしょうか?」
「えっ、ええ。今日はもう夕方ですからね。明日の午前中で如何でしょうか?」
「はい、こちらのリックの他に建築士やその助手等、総勢5名で来ています。明日の午前中に建築士とこちらへ伺おうかと思いますが」
「了解しました。それではこの後は歓迎の宴という事で、如何でしょうか?」
アルフレッドの表情が緩んだ。事情を知らなければ本当に俺達を歓迎している様にしか見えない。
だが、こちらだって段取りがある。
「いえ、折角ですが本日は移動の疲れがございます。この後は宿で泥の様に眠る事でしょう」
「エイジが当代随一の魔道士でも、流石に疲れましたか?」
ディックがアドリブ!
「魔法を移動にお使いに?」
「アルフレッド様、私が作成したゴーレムをお覚えかと思いますが、それに馬の代わりに車を引かせて参りました。普通の馬車の倍以上の速さですよ!」
「機会が有れば、今度乗ってみると良い。貴重な体験になるぞ」
人って必要な状況で成長するんだな。
不敵な笑みさえ浮かべるリックを見ていると、つくづくそう思う。
「そうですか!それでは今度私も乗せて頂きたいものですね!」
残念、アルフレッドが乗るとしたらその時は、護送の時だ。
「そういう訳で現在は疲労困憊して魔力も空です。今日は大人しくしています。明日には回復しますから、ご心配無く」
「そうですか。それではご自愛下さい」
「それでは我等はこれにて失敬する!」
さて、立ち上がった所で仕上げだ。
「あっ、そうそう。後ろの皆さんにお聞きしたい事が有ります。アルフレッド様、よろしいでしょうか?」
「ええ。彼らにですか?」
敢えて彼等の記憶に残る様に振る舞う。それこそ、今思い出したかの様に。
「はい。私たちは大通りに面した金の鷲という宿屋に泊まりますが、近くの美味しいお店をご存知ありませんか?」
「はは。そんな事ですか。お前達、順番にお薦めの店をお答えしなさい。しかし、何処で食べてもアベニールで食べたあの料理の方が美味しいですよ。早く飲食店の方も進出して下さい!」
アルフレッドはこの世界には本来無い料理、ハンバーグを思い出したのか、表情がニヤついている。
領都が綺麗に片付いたら、進出するさ。
そんなこんなでアルフレッドの部下達から次々と店を紹介される。
しかし、そんな事はどうでも良い。
俺達5名で金の鷲に泊まるという情報を伝える事が目的だ。
あ、でも、
「どの店で食べても、これをお見せ下さい。これで請求書は代官所に廻る筈ですから!」
アルフレッドの署名入りの証書をもらった。
これは有り難く使わせてもらおう!




