ステラさん 32歳で 生娘で
唇がステラから解放される迄に、どれ程の時間が掛かったのだろう。
「ごめんなさい」
「ステラさん」
「あぉ、お願い、今はステラって呼んで」
部屋は暗くてステラがどんな表情なのかは分からない。
分かっている事は、ステラは酔い潰れて寝た訳ではなかった事と、俺の首に腕を回して離さない事。
「ステラ」
「エイジ」
ベッドに倒れ込むステラに、そのまま引きずり込まれた。
「お願い、私を終わった女じゃないって証明して」
そう言うとステラは再び俺の唇の自由を奪う。
そうなると俺の手も自然とステラに伸びていく。
しかし、如何せん暗い。折角美女を相手にするのだから、真っ暗闇は無いだろう。
俺は電球をイメージして光魔法を使う。
「きゃ、明るくしないで」
部屋は明るくなり、恥じらっているステラが見えた。
うーんっ、大人の色気。
だが、確かに明るい。60ワット相当では明る過ぎたか。ムードも出ない。すぐさま20ワット相当に切り替えた。
「ステラ、何故?」
「貴方が言ったのよ。貴方の国では女盛りだって」
確かにアンケートでは、20代後半から30代が女盛りと答える人が多かったからな。
「それで?」
「貴方が終わった女だった私をその気にさせたの」
「ステラ」
「私だって女なのよ…」
据え膳食わぬは男の恥
彼女いない歴イコール年齢。42年間キスすら為たこと無かった俺が、キスは娘で、その先の事は母親でコンプリート!
ステラは触れると、過敏に反応する。
細身の身体をくねらせて感じる様は何とも悩ましく、ため息が出そうなくらいに妖艶。
またしても心臓の鼓動が激しくなる。呼吸も荒くなる。
これ、下手に抑えたら死ぬかもしれない!
もう、自制心は崩壊した。
「優しくして。こんな歳でもまだ殿方を受け入れた事が無いの」
「つまり、生娘?」
「そうね。でも、娘って言うのかしら?」
ステラはうふふと笑った後、不意に我に返る。娘という単語に引っ掛かった様だ。
俺達はそのままの格好でベッドに横になって話し出した。暫しの休憩?
「でも、母親失格ね。自分の欲求満たす為に、娘の亭主に手を出そうなんて」
「ステラはソフィの両親である兄夫婦が亡くなって、結婚を諦めてソフィの母親になったんだろ?もう自分を解放しても良いんじゃないか?」
「そうかしら?」
「ああ。村長まで務めているんだ。背負い込み過ぎだよ」
「でも村長は我が家で代々受け継いでいるし、ソフィだって私しか身内が居ないから」
「だからソフィはステラに心配掛けない様に、15歳で婚約したんじゃないか?」
「えっ!」
ステラは驚きを隠せなかった。
「誰に聞いたの?」
「村人だ。最初の婚約者はソフィより5歳年上だって」
「ええ、村で1番大きな農家の息子のアラン。私の為というより、ソフィが彼を好きだったのよ」
「だけどアランは死んだんだろ?」
カールから聞いていなければ、今どんな醜体を晒していた事か。
「この村の男はよく領主様に兵隊で採られるの。アランもそれで死んだわ」
「それで次は領主の家来だっけ?」
「領主様に胡麻擂ろうとしたの。副村長の提案でね。殆ど会ってないから、名前も憶えてないわ」
「ステラの婚約者は4人か」
「古い話よ。もう忘れたわ。憶えていたら、貴方にこんな事出来ないわ」
正直、婚約者の話は最早どうでもいい!
年下だけどアラサーの色気にもう我慢が限界だ!
「ステラ」
我慢出来なくなった俺は、脈絡も無くステラを抱き寄せる。
その時だった。
ガチャっとドアの音がしたかと思うと、
「お母さん、お母さんと寝る」
寝ぼけたソフィだ。まだ酔いは覚めていない筈だが。
俺は咄嗟に光魔法を消して、主人に見付かり掛けた間男の様にイソイソとステラの部屋を後にした。




