表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

138/302

初めての 恫喝ディックに 出来るかな

「王宮魔術師のリック・レイスです!」

 

 偽リックとして、ディックが声を裏返して王宮魔術師の身分証を領都の門番に見せる。

 

「これは遙々とご苦労様です。ようこそ領都クーベルへ」


 王宮魔術師の身分証は本物のリックのそれなので、疑うなんて以ての外だ。領都の門番は馬車の中を覗く事すら出来ない。


「上手くいきましたよ!」


 リックがアベニールに入った時よりも随分と謙虚だが、仕事を1つ済ましたディックから思わず爽やかな笑みがこぼれる。

 これで満足されても困るのだが。



「ここが領都か」


 やはり領都と言うだけあって、アベニールよりも道が広いし人も多い。


「エイジ、どうされますか?」


「取り敢えず、昼飯食べてから宿屋を探そう」


 到着はちょうど昼食時だ。

 今日はベッドで寝たいから宿屋の確保は重要だ。

 そして、その宿屋が領都での生活拠点となる。

 先が読めないが、長くても1カ月だと見ている。

 そんな短期では家を借りる事も出来ないし、この世界にはウィークリーマンションなんて多分無いだろう。

 そう考えると宿屋で寝泊まりする事が現実的だと思う。



 昼食は適当な店で済ませる。だが、評判店らしいが大して美味くもないな。

 これが領都の食の標準レベルなら、クロエの店が進出すれば革命的な事になるだろう。

 勝算は有ると確信した!

 さてと、食べたら宿探しだ。



 大きな通りから1本入った路地に面した小さな宿屋を見つけた。

 目立たない所の方が良い。


「シングルを7部屋、1カ月間」


「1カ月?」


 恰幅の良い女将が驚いているが、この条件は譲れない。


「前金でこれだけ払う。残りは後で払う」


 俺は女将に金貨5枚を見せると、女将の目は金貨に釘付けになっている。

 金貨って庶民には珍しいらしい。

 日本の感覚だと百万円の札束をドンと置かれた様な感じなのかな?


「お客さん、ウチは小さいからベッドと朝食しか無いよ!本当に良いの?」


「構わない。その代わり、俺達がここに泊まっている事は秘密で頼む」


「秘密?何で?」


「その方が女将さんの為だからだよ」


 俺の予想通りならば、恐らく今夜にでも事が起こる筈だ。



「女将さん、この街の面汚しみたいな同業者っているかい?」


「何だい?藪から棒に」


「この街に悪どい宿屋って無いか?」


「そんな事を知ってどうするんだい?」


「ちょっと興味があってね」


 女将は訝しげな表情を見せるが、なにか思う所が有るのか小刻みに頷きだした。


「それなら、表通りに出て西に少し歩いた所に在る、金の鷲って宿屋が客を見て態度を変えて評判悪いねぇ。それに…」


 俺が身を乗り出すと女将も身を寄せ、小声になって続ける。


「用心棒を雇ってね。客が弱いと見るや法外な料金を請求するんだよ」


「そうか、ありがとう!それが聞きたかった」

 

 見た目通りの話し好きな女将だな。

 でもお陰で欲しい情報は得られた。

 

 

「リック、出掛けるぞ!」


 ミラ、トニー、エリスは観光として街を見て回る。リックとハリーは調査に出る事にした。

 俺はリックの振りをしたディックと出掛ける事にした。


「どちらへ?」


「先ずはその、金の鷲と言う宿屋。その後にアルフレッドに到着の挨拶をしなければな!」


「宿屋?」


「ああ、確かめたい事が有る。もしも俺の予想通りなら、その宿屋に犠牲になってもらう事になるが」


「えっ?」


 キョトンとしているディックを連れ、段取りを説明しながら、金の鷲と言う宿屋を探す。


「あれじゃないですか?」


 ディックが見つけた様だ。

 なるほど、金色に輝く鷲のオブジェがそのまま看板になっている。


「いらっしゃいませ」


「この街には工事の仕事で来た労働者です。5部屋ほど空いていますか?」


 フロントの中年男は表情を渋くさせ、ジロジロと俺を値踏みしている。

 

「はぁ、労働者?あいにく満室でね。他所に当たってくれ」


 値踏みの結果、金持ちには見えなかった様だ!

 しかし、予想通りでもこの態度は頭に来るな。


「だそうだ。リック」


 俺はディックに目で、行けと合図した。

 こういう奴には、国王直轄部隊の王宮魔術師として言ってやれ!


「王宮魔術師のリック・レイスだ。5部屋欲しい!前金だ!」


 今度はビシッと決めたディックが、1枚の金貨をカウンターに将棋指しの様にピシッと置いた。

 音の響きが収まらない内に、男は目を大きくさせた。


「失礼しました!5部屋、直ちに御用意させて頂きます!」


 分かり易い奴だ。


「そちらはお連れ様で?」


「こちらは友人で、代官のアルフレッド『とやら』から請われて来た魔道士だ!」


「えっ!」


 フロントの中年男は表情に焦りが見える。


「代官が呼んだ客人がお前の無礼で帰る所だったんだ。それでもここに泊まってやる事に感謝しろ!」


 ディックの奴、板に付いてきたな。


「先程の無礼、御容赦下さい」


 中年男はカウンター越しに、今度は必死になって頭を下げてくる。

 コイツと問答している時間が惜しい。その場はそれで済まして、用意された部屋に入るとディックが怯えた様な表情を見せる。


「エイジさん、僕はあの人にとんでもない事を言ってしまいました。どうしましょうか?」


 うーん。まだ経験が必要な様だ。

 育ちが良すぎるのも考え物だな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ